府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(1)


はじめに


平成25年2月4日(月)朝10時から1時間、府中刑務所内の受講生16名を集めて、東京都地域生活定着支援センター 赤平センター長(以下、講師)による恒例の「社会福祉講話」が構内で行われました。この取り組みは平成24年4月から始められ、今回21回目の講義を迎えます。どのような経緯を経て導入され、軌道に乗って行ったのかについては、これから刑務所側に取材していく予定です。まずは、実際にどのような取り組みなのかを、隔週で報告、今回はその第一回目です。


受講生のプロフィール


受講生は、20代1名、30代3名、40代7名、50代4名、60代1名の男性で、療育手帳を持つ方は2名、手帳を持たず知的障がいがある方が6名、その他は、精神障がい、てんかん、高血圧・糖尿病などの障害や疾病があります。


罪名は、約7割が、窃盗・常習累犯窃盗で、残りは詐欺・毒物及び劇薬取締法違反・道路交通法違反・覚せい剤取締法違反です。出所予定は、一番早い方でこの春、一番遅くて2年後くらいです(満期出所の場合)。


イントロダクション:授業の導入部


教室見取り図

日本人なら誰でも知っている"起立・気をつけ・礼"で、「授業」は始まります。講師は、パワーポイントの画面で今日の日付を見せます。「2月に入ったね」生徒を前に、微笑む講師のまなざしが受講生に注がれています。


まず、四季を楽しむという感じで、季節に絡む話題をテンポよく進めます。受講生の節分豆まきの思い出話をたずねたり、巷で人気の恵方巻きの話をしたり(食べ方の作法や言い伝えなど)、プロ野球シーズンが始まってうれしいのはこの中では誰とか、ごく自然に話しかけ、皆をリラックスさせます。


最近の大きなニュースについて


パワーポイントの画面が変わり、「市川團十郎」死去、「アルジェリア人質事件」、「体罰」という大きな字が一枚ずつ現れます。受講生の中には、歌舞伎に行ったことのあると発言する人もいれば、嫌いだと言う人もいるし、体罰で高校生が自殺した事件について知っている人もいました。講師は、これらの事件について簡単に概要を説明し、受講生の反応が明瞭だった体罰について、受講生の経験やその時どう感じたかを聞いていきます。自分から発言する人もいるし、指されてからの人もいますが、皆、自分の気持ちを正直にはっきりと言います。この講義の間は、自分の感じたことを、何でもしゃべっていいのです。


殴られた時は腹が立つ、悪いことをしたのだから体罰を受けるのは当然、どこまでが体罰かが問題、飴と鞭の使い分けが必要と、受講生からいろいろな意見が出ます。私語禁止規則を破ったために刑務所内で受けた罰の理不尽さに触れる者もいます。


今日のテーマ「保護」~保護司・保護観察・更生保護・生活保護


パワーポイントは"保護(会)"と出て、受講生は自身の経験から更生保護施設について知っていることを話します。住む所のない人が、仕事を探しながら短期間集団生活を送るところ、中学で少年院に行く代わりに入った、一部屋に数人でなじめなかったからすぐに出たなど、次々に発言します。


続いてパソコン画面の「保護」の定義(漢字にルビはない)を、IQ30だという40代男性がすらすらと音読します。その隣でIQ40だという50代男性は、意味がわからないと言います。次に、話題は「保護司」へ移り、講師は自身の上着に付けた保護司バッジの「法」という文字をホワイトボードに書いて見せます。


講師と受講生の交わりは続き、保護司と関わったことがあるというほぼ全員から、どんな経験だったか、どんな部分で役に立ったか感想が出ます。次にパソコン画面の「更生保護」の定義の中の"健全"という言葉の意味を問われ、犯罪をすることは健全ではないと説明するものもいます。


続いて「更生保護施設」の説明で、そこでの生活の特色や、地域によって寝床の形態も違うようすを講師が話すと、何人部屋か、携帯電話の契約で住所はそこか、障害年金のはがきは届くか、保険証の住所は、報奨金は1日でなくなる額、生活保護は、病気になったら、と立て続けに質問が出ます。出所時期が近い人は特に具体的に聞いてきますが、時間の関係で生活保護のテーマは、次回へ持ち越しと講師は提案しました。


最後のスライドは、ソ連邦の劇作家アルブーゾフの"幸せというものは一人では決して味わえないものです"という名言と、"反省は一人でもできるが、更生は一人ではできない"という引用で、「人」という字の通り、支え合って生きましょうと講師は結びました。これには、受講生よりも専門職の人たちの方が大きくうなずいていました。


府中刑務所正門正門への道府中刑務所外回り


府中刑務所の外回りも構内も、整然としていて手入れが行き届き、きれいです。


"共創"の素晴らしさ~視察第1回目の感想


共創

刑務所側からの報告では、受講者のIQ値は30~50台が約8割で、残りは70台です。IQがどの程度なら、この講義を聞いてわかるのかという疑問よりも、あの時間と空間を皆で共有し、わかってもわからなくても真剣に話を聞いて質問し、言葉を発しなくても何かを思い、考えるのでしょう。薄幸な過去を振り返るような療法とは無縁の、今を享受し、もっとよくなるために知りたいことを教えてもらえる、実用的な知識を得られる、非常に前向き・建設的な取り組みです。


講義(と言うよりも、知的な交流という感じ)は、役に立つ具体的な情報を得られ、しかも自分の意見を自由に言える場です。運び方もメリハリがあって、1時間と言えば一般的に集中力も続かないと思いますが、あとからあとから話題が移っていくので、飽きさせないのです。受講生たちは、このような機会を楽しむ場面が今まであったでしょうか。最後になりましたが、やはり、講師が相互作用を楽しんでいるところが、皆をひきつけるのではないかと感じます。次回の講義が今から楽しみです。

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