府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(9)

府中刑務所 福祉講話 26年1月20日(月)


受講生のプロフィール


今日の講話は、受講生16名のうち、1名は満期前指導で、もう一人は腸の不調で欠席。また、新しい受講生が1名加わり、計15名です。年齢は30代から60代、療育手帳所持者5名、身体と精神の手帳所持者各1名です。残りの大部分の人たちは、手帳はないが、疾病や後遺症があります。出所時期は、最短の人で来月、最長で3年後。


時事の話題


パソコンに写真や文字が映し出されて、話題がポンポン進みます。

逆さ富士

時候の話では逆さ富士、ニュースでは1月15日に発生した海上自衛隊輸送艦「おおすみ」と釣り船の衝突事故、1月17日で19年になる阪神淡路大震災、そしてオウム真理教テロ事件から19年。それぞれ説明を加えながら、講師は皆に次々と質問を投げかけます。


「阪神淡路大震災のとき、○○さんは、どこにいた?」

「刑務所です、▲の」「10分くらい大きく揺れた」


「地下鉄サリン事件の起こった日の事、憶えてる?」

「その日、おれ、同じ電車に乗ってた、途中で降りた」


「平田信被告の裁判、裁判員裁判って、みんな知ってる?裁判がスピーディーになるらしい」


心が壊れる


「例えばサリン事件では、後遺症で亡くなった方、生きる気力をなくした方、家族を亡くした方、心が壊れてしまった方、そういう方々が沢山います」

「心が壊れるってどういうことかわかりますか?」と聞かれ、「心の病気」と答えるものもいます。


「前回の講話で、映画の話をしたね、◇さんは、"タクシードライバー"が好きだって、○さんは、"レオン"が好きだって言ったね」タクシードライバーでは、ロバート・デ・二―ロの役が、睡眠障害があって夜中にタクシーの運転の職に付き、その間に13歳の売春少女に出会い・・・と、その後の展開を講師が話します。レオンが好きだった○さんには、講師が助けながら映画のあらすじを言ってもらいます。「これらの映画に出てくる登場人物たちも、様々な悲惨な体験を通して心が壊れていってしまいます。」


今日のテーマ:人生と山登り


「人生はよく山登りにたとえられますね、みんな、山登りしたことある?」富士山に登った事のあるという、二人が手を挙げます。

「山登りで大切な事って何だと思う?」


「自分の命を守る事」

「ルールを守る事」


「うん、無事に下山する事、無事に家に帰る事だね」


富士山


そう言いながら、ホワイトボードに富士山の絵を書きます。

「日本人の平均寿命は、男が大体80歳だから、この頂上は40歳として、○さんは、35だからこの辺。△さんは、54だからこの辺かな。」「◇さんは、例えばもし、余命あと10年って言われたら、何する?」


「おいしいもの、いっぱい食べる」

「好きな事する」


富士山のふもとを指しながら、「刑務所を出てから、このふもとまでどうやってたどり着くか?」


「山、登ったことないからわからない」

「大変だと思う」

「下りるときの方が、難しいのかな」

「ころころ、おっこっちゃう」


「さっきもあったけど、映画は生きる事と、死ぬ事を描いているよね。このテーマから逃れられない。」

「みんな、東京物語っていう映画、知ってる?小津安二郎監督です。ヨーロッパでは、日本映画の中で、東京物語が、今まで一番高い評価を受けたそうです。昭和28年の映画です。」


東京物語


「おれ、22年生まれ」と誰かが言い、講師は映画のあらすじを話します。

「この映画でも、日本人や家族の生きざま、死にざまを描いています。」

「私も、みんなも、いつか死にます。どんな風に死ぬか?後悔して死ぬ?」


「いや、その場になったら、開き直ります」


「みんな、今後の人生、どうやって生きようか、まじまじと考えた事ある?」

「ない」(60代)

「体力の衰えを感じる」(30代)


おもてなし お陰さま

滝川クリスタルの"おもてなし"の画像が出て、そのあと"お陰さま"の文字が出ます。


「日本人の美徳は、こっち、お陰さま、の方ですね。」

「自分一人では生きていけない。再犯するかしないかは、このお陰さまにかかっている」


「間もなく出所する人たち、一人じゃないから。どうやって他の人と接するか。▼さん、今まで、帰住調整のために色んな人と会ったでしょ。お陰さまっていうこと思って、一人じゃないよ。」


講話を終えて


死ぬ日がいつか来ること、それまで、どうやって生きるか、その時、どうやって死にたいか、皆、このようなテーマで、人と話したり、考えたことはあるのでしょうか。考える必要はあったでしょうか。よりかかれる身寄りもなく、福祉に頼ることもできず、他に生きるすべを知らず、窃盗や詐欺をして刑務所に入ってしまったのなら、生きることに一生懸命で、死ぬ事など考える余裕もなかったのではないか。


受講生の半分以上が50を過ぎた人たちですが、生きることを楽しまないうちに、死ぬ時の事を考えるのは、あまりにも悲しい。出所後、定着支援センターを始め、福祉の力で、いい人生が送れるように手助けしてほしいです。でも、講師の言われるように、本人がその手助けを理解して、感謝して、応えることも大事でしょう。もし福祉が出来ることをやっても、再犯で刑務所に逆戻りになるのなら、その原因は別の所にあるでしょう。


それにしても、この福祉講話の参観で、いつも思うのは、受講生たちがみな、実年齢よりもずっと老けて見えるということです。30代の人も、50代の人も、10歳かそれ以上に見えます。


ずっと不思議に思っていたので、今回グーグルで検索したら、2001年の研究論文が一本だけヒットしました。医師向けのジャーナルという事で、この研究の対象は、イギリスの公務員ですが、実年齢より老けて見えた男性は、医学的には、血清コレステロール(血液中のコレステロールの濃度の事)と、ヘモグロビン(赤血球の中にあるタンパク質)の値が高かったという事です。そう言えば、高脂血症の人もいました。長年にわたる食生活の影響ですか?


でも別の所を検索したら、プリズン・トーク・オンラインというイギリスのサイトで、刑務所に家族が入っている人たちのコミュニティがありました。そこには、その人によって、すごく老けて見える人も、逆に若く見える人もいると書き込みがありました。若く見える理由を、その家族は、請求書を払う必要もないし、仕事の心配もしなくていいからでは、と言っています。また、今いる刑務所から、もっと環境のよい刑務所に移された人は、前よりもずっと若返って見えたとも言っています。


次回の講話参観は、3月3日、この日の講話を最後に、出所する受講生が数名います。

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