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府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(8)

府中刑務所 福祉講話 25年11月18日(月)


はじめに


今日の福祉講話は、新しい受講生1名を迎え、30代4名、40代5名、50代4名、60代3名の全部で16名です。そのうち療育手帳がある人が5名、精神と身体の手帳がある人がそれぞれ1名、16名中11名が疾病、障害(疑い含む)、後遺症があります。出所は、一番早い人で26年初め、一番遅い人で27年半ばくらいです。


ウォーミングアップ


いつもの通り、講師は、紅葉の話や先日亡くなった島倉千代子さんの話から入ります。島倉千代子と言えば、現在、某県で一人暮らしをしているという元受講生/元受刑者の▼▲さんのスピーチを思い出して、講師も触れます。「いくつまで生きたんですか?」と一人が聞き、「肝臓がんだった、新聞読んだ」と別の生徒が加えます。


大切なもの


以前、皆に発表してもらった「大切なもの」リストで、一つだけ出てこないものがあった、これがなくては生きていけないもの、皆に共通するものですよ、と講師が続けると「酒」「世界平和」と答える生徒がいます。



この字がパソコンのスクリーンに出て「遊ぶ、みんな、どうですか」と聞かれるとすぐさま、「余裕がないから」という生徒がいました。先生はそれを流して、「遊び」が付く言葉を生徒に聞きながら、一緒に例を挙げて簡単な説明も加えます。「遊園地、女遊び、夜遊び、山遊び、川遊び、砂遊び、遊説、外遊、遊動円木、三遊亭円楽・・・」


「遊ぶとは楽しむこと、余裕があること、こんな使い方もあるよね」と挙げていきます。「仕事もしないで遊び呆ける、ハンドルに遊びがある、◇さん、▽さんは、車の免許あるでしょ?ハンドルに遊びないと怖くて運転できないよね?」「野球でも、三球三振取れるのにわざわざ近くへ投げて遊ぶ、柔道でも遊ばれてしまったとか言う」


「では、遊びの反対(対語)は何ですか?」と聞かれ、誰かが「働く」と答えます。「いいこと言うね、そう、遊んでないでまじめにやれとか言うね。ただ辞書を見るとちょっと違う、みんなどんな辞書があるか知ってる?」広辞苑、類語辞典、百科事典、英和辞典、四文字熟語辞典、漢和辞典・・・と挙がっていきます。講師は「対語辞典に遊の反対はない、いろんな意味があって幅広いからね」と言ってこの漢字の由来を簡単に描写します。


今日の質問:あなたは何をして遊ぶのが昔、好きでしたか?今、好きですか?


紙と鉛筆が配られると、皆、一気に書き始めました。今回は、長いこと書きやめない人がほとんどです。「先生、趣味も入れていいですか?」「仕事も遊びに入れていいですか?」


となりの人の回答を覗き込んでいる生徒に「覗いたってしょうがないでしょう~」と笑いかけながら、講師が教室を見て回ります。


16人全員が何かしら書きました。講師は授業を続けますが、ここで私が彼らの書いたものを、30代から60代まで若い順に、そのまま紹介します(同じものは一回だけ)。

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かくれんぼ、だるまさんころんだ、雪がっせん、ドッチボール、サッカー、野球、バスケットボール、フルーツバスケット、ゲーム(ファミコン、スーパーファミコン、プレステ)、おにごっこ、ミニ四駆、ビックリマンシール集め、友達の家で遊ぶ、プラモ作り、ガンダム、車など)、BB戦士、テレビ観しょう、モデルガン集め、映画、遊園地、動物園、ゲームボーイ、かげふみ、なわとび


雪合戦

テーマパーク、ギャンブル、風俗、ゲーム、ドライブ、海、山、マンガ、学校の文化祭、秋葉原、キャバクラ、ゲイバー、ぶらぶら、アメ横、道のり駅


カラオケ、酒を飲みに行く、トランプ、ゲームセンター、釣り、カルタ遊び


パチンコ


現金のたまるパチンコ

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遊ぶのは嫌いでした(嫌いです)。(全般的に)←これはZさん

現金がたまる、飲み物、パンなど食べることができる遊びはよろこびと思う。

食べることが好き、テレビを見ることが好き、ねるのが好き、一人でいるのが好き

ボール遊び

ソフトボール、オセロ、スナック、ぴんさろ、ソープランド

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家にいないで外歩きが好き


たこあげ

昔 ちゃんばらごっこ、こま、おはじき、たこあげ、けん、かんけり、現在は、特にパチンコが好きです。朝開店から2時間が勝負です。使う金額は3000円です。これ以上は使いません。


マージン、はなふだをして遊ぶのが好きでした。


ボリブあそび、みずあそび

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木のぼり、犬と遊んだ


犬と遊ぶ

すぐに頭の中で思い浮かんだことは、私の息子の事でした。息子がまだ幼い頃に遊びに行った場所、それは家族皆で、息子が何よりも大好きだった場所、その場所は動物園を兼ねました。遊園地 東武動物公園なる所でした。私の思い出として一番印象的な遊びの思い出でした。

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遊びは無駄か


この質問に「遊んだほうがいい」「一つの経験」「発散という事もある」「休むこと」「ねることも遊び」と返ってきて、Zさんは「人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ」を読んだと告げます。


遊び


ホワイトボードにこう書きながら、講師は「休むって自由だね、自分の世界だね」


講師:「自分が楽しむためにはどうしたらいいか。みんな、ラグビーはサッカーから生まれたって知ってる?イギリスの学校のグランドでサッカーをしていた、足は速いが上手くいかないエリス君という少年が急にボールを抱えて走り出した。それがラグビーの始まりだって」


生徒:「創意工夫したんですね」


講師:「そうなんだよ、でも足の速いものだけが有利になっちゃうから、そこでラグビーは、ボールを後ろにしか回せないことにした」


講師:「携帯電話もそうだね、話すだけだったものにいろんな発想が出て、メールやゲームもできる、遊び心だね」「みんなの窯業も、矯正展に出すんで、絵付けにも工夫を入れて楽しくやるでしょ」そこでZさんはきっぱりと「だってやらないと、作業報奨金が。作業はやらなくてはいけない」


「やらなきゃならないと思うと辛いよね、やらなくてはいけなくても、作業しているとき、考えることは自由でしょ、創造することをだれも止めることはできない」。そして「独創性」という文字がスクリーンに出て、「ピカソのように、なぜ独自に創れるのか、考えることは自由だから」と講師。

「でも、社会復帰したら、徹底的に遊べよという意味ではない。頭をからっぽにする休み方を、ということです。楽しんで生きないとね。さっき、キャバクラって書いた人いたね。女性と話をするのが好きなんだね?」それを書いた人らしき生徒がうれしそうにしていると、講師が「人生の中で、大事でない時間はない」と。

遊ぶのは人間だけではなく、餌付けされた猿も猫も遊ぶ。食べ物の心配がないから、安心感が生まれ、遊びが生まれる。ところが野生の猿は違うと講師は話します。


講師:「これから面接する人、○さん、□さん、△さん、皆自由に話してくれると思い白い人たちばかり」「ところで、遊ぶって英語でplay って言うね、音楽もスポーツもplayerって言うでしょ。遊ぶ人だね」


生徒1:「アメリカは大人も遊ぶんですよね?」

生徒2:「アメリカは野球でも遊んでます」

生徒3(Zさん):「感情表現が大袈裟なんですよね」


講師:「向こうから見たら、日本人は何考えているかわからないって言うよ」


生徒2:「なんで(日本は)同じやり方で応援しなければいけないんでしょう?」

生徒1:「それに、(何か人にあげる時)つまらないものですが、って言うし」


講師は、遊びが大事だというのは古今東西同じ、「大切なもの」リストに遊びが入っていなかったので、と言ってくくりました。


心を豊かに

講師が「遊びのあとに残るものが、心を豊かにすれば、ああ、よかったなーと思えれば」と言えば、Zさんは「道のり、過程が楽しいんです」と言う。

講師が「これからは、カチカチな話ばかりではなく、こういう話もしていこうかなと」と言うと、Zさんは「(生徒たちが書いたものを指して)これ読んで、どうするんですか?悪くは使わないんですね?」と言うと、◇さんは「障害者年金の仕組みとか取得の仕方が知りたいです」と言う。その隣の人は「自分はケースワーカーに聞いたりして少し知ってます」と。


Zさんの質問に対して先生は「これを読んで、みんなの事をもっと知りたいからです」と答えます。


障害年金については、来年度の教育プログラムでやると思うと講師が言うと「これ(福祉講話)が変わるんですか?」と誰かが聞く。教育プログラムは別で、社会へ戻るときに必要な基礎知識を増やすために時間枠が増えるのだと講師が説明します。「◇さん、障害年金の話とか分からない人もいるから、それだけって言う訳にはいかないけど、◇さんは(出所まで)まだ時間あるから(あと約1年)、考えときますね」


講話を終えて~遊びと社会格差?


今回の講話は、人生に大切なこととしての「遊び」がテーマで、紛れもなく楽しいそうな雰囲気でした。皆の緊張が緩み、好きな遊びを頭の中で想像するだけでも楽しくなったのではないでしょうか。ただ、皆が書いた遊びのリストを見ていて、やはり遊びにも社会格差が表れるのだろうかとつい思ってしまう。


子どもの頃の遊びは、時代と共に移り変わっていくのだろうが、大人になってからの遊びは、経済的な余裕、時間の余裕、予備知識が必要だったり、幼少から育まれた嗜好に影響されたり、培ってきた文化的素養、物理的・知的なアクセス、地域性などに補強されると詳しい人たちは言います。

キャンピング


米国のある調査によると、貧困層が非貧困層よりもレジャーとして最も時間を割いている唯一の項目は「毎日テレビを5時間以上見る」で、スポーツ、キャンピング、音楽やオペラ鑑賞等全ての項目で貧困層ははるかに下回っていました。米国にパチンコは存在しないらしいので、それは当然なかったですが、もし日本で同じような調査をしたら、貧困層が遊びとして時間を費やす上位はパチンコになるのでしょうか。また文部科学省でも「スポーツ享受の格差問題」として、「裕福な家庭に生まれなければスポーツさえもできない」状況から格差の再生産へと続くと言っています。


スカイダイビング


健康にも社会格差が表れると言われて久しく、これについてはマイケル・マーモットというイギリスの公衆衛生学教授が書いて話題になった「ステータス症候群―社会格差という病」という本。彼は、生活困窮者がそうでない人たちより心血管疾患にかかる・寿命が短いという単純な事ではなく、例えばイギリスの公務員を階級順に並べた場合でも、そこには、寿命や健康にグラデーションがあると言っています。


この学者は、一般的には、階級が上に行けばいくほど、ストレスも多くなり、病気になりやすいのではないかと思われがちだが、18,000人の男性公務員20~64歳を10年以上おった研究(Whitehall Study I)の結果、実際には、その反対で、位が上がれば上がるほど健康状態がよくなることが分かったと言っています。そして、その健康状態は、社会的ポジション、相対的・絶対的剥奪(感)、自己統制(力)や社会的な参加(の度合い)によって影響されると。結論として、国の健康改善のための政策は、社会的環境と健康の関係、そして特に、初期発育段階・若齢期の経験の重要性を考慮しなければならないと言っています。

イルカと泳ぐ


このマーモット教授の研究を受けて、健康の格差に何が影響を与えているかのWHOの研究では、社会的階級、ストレス、幼少期・若年期の経験、仕事、失業状態、社会的サポート、依存症、食べ物、交通手段の10の要因を挙げて調査しています。


興味深いのは、そこに「遊び・レジャー・リクリエーション」が入っていないことだと、今日の講話のあと考えました。なぜは入っていないのか。もし入っていたら、パチンコを楽しむ人と、オペラ鑑賞を楽しむ人とでは、オペラ鑑賞の方が、他の要因も加味すれば、これら一連の研究結果から、きっと健康状態がよいと推測されます。


でももし、それがどんな種類の遊びであれ、その遊びを心から楽しんでいるなら、格差を気にする必要があるのでしょうか。そうなると、やはり、今日、赤平先生の発した言葉「遊ぶことは、休むこと、自由になること」「やらなければならない作業中の身でも、創造することは自由」の意味の深さです。


暖炉


だから、たとえ遊びにも社会格差があって、金や時間や素養がなくて出来ない・知らない遊びはあっても、遊びが自由になることで、創造できるのであるなら、遊びの種類にランク付けはいらないでしょう。赤平先生の講話には、実に考えさせられます。受刑中の受講生は、講話のあとどんなことを考えるのでしょうか。



次回の訪問は、年明けの1月20日の予定です。

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