平成25年9月24日、講師 赤平センター長(東京都地域生活定着支援センター)の府中刑務所における「福祉講話」の授業(障がいを持つ受刑者対象)は、釈前教育のため、一番若い20代の受講生が欠席で、新しい生徒2名を含む19名の受講生を前に、始まりました。来月10月初めに出所する特別調整対象者3名にとっては、今日が最後の講話になります。
受講生のプロフィール
今日の受講生は、30代4名、40代7名、50代5名、60代3名で、手帳のある人は19名中5名、知的以外の障がい、または、疾病のある人は14名、出所は一番遅い人で平成28年です。
今日の時事ネタ
巨人優勝胴上げ
「みんな、野球好き?野球に関心のない人、どのくらい、いたっけ?」と講師が手を挙げるそぶりをすると、何人かが手を挙げています。「この背番号206って、試合に出ているの見たことないでしょ?どんな人か知ってる?」打撃投手とか、ブルベンキャッチャーとか、裏方で仕事をする人たちがいると説明します。「試合には出れないけど、この人たちがいないと、だめなんだね」確かに。
やられたら倍返し?
半沢直樹
「これ、知ってる?」と聞かれて、半沢直樹とフルネームで答えた上に、「原本も売れてます」と答える、Zさん。講師は「こういうのが、流行るのが、いいのか、わるいのかわからないね」確かに。
じぇじぇ!
あまちゃん
講師は、NHK連続ドラマのあまちゃんの使う方言について、簡単に説明していますが、受講生には馴染みがないのでしょうか・・・
今でしょ!
この人についても、Zさんは知っていました。
おもてなし
この画像にコメントした人はいないので、講師は「もてなすとは、どういう意味?」と聞き、出所間近の◇◇さんは、「人にやさしくすること、お茶や料理を出したり」と。
今日のテーマ:ほしいもの → 大切なもの → 必要なもの(消去法で)
「今日は、みんなで考えることをしたいと思います。社会に戻っていくときに必要なことですね」
質問:
Q1. 「まず、欲しいものを思い浮かべて、最低10個、書いてください。思いつくもの何でも、金、車、食べ物、CD、愛とかバンバン書いていってください」
全員に紙と鉛筆が配られると、みんな一斉にカリカリと鉛筆の音を立てて、書きこんでいきます。皆が共通して欲しいものも多々あります。
金、甘いもの、車、家、肉、資格、自由、ゲーム、スマートフォン、友達、彼女、服、お店、仕事、CD、ステレオ、生きていれば父母、カメラ、テレビ、ダイヤ、リング、竹、おいしいもの、時計、DVD、タバコ、アルコール、家族、靴、帽子、財布、車の免許、家を作る材木、一万円・千円・五百円玉の束、寿司、犬、健康、お菓子、空、地球、バイク、トラック、女、心、恋人、マイホーム、子ども、旅行、社長、有名、携帯電話、普通の生活、命、母親からの手紙、老眼鏡、コルセット、痛み止め、ボランティア、悟りの心、等々
Q2.「では次に、この中から、大切なものだけ選んでください。」
講師は、それぞれが書いた欲しいものリストから大切なものだけ選ばせます。皆が発表する意見を聞きながら、講師がホワイトボードに順不同でリストアップしていきます。
金、命、免許、携帯、コルセット、老眼鏡、バイク、家、友達、健康、指輪、帽子、靴、仕事、家族、自由、DVD、女、恋人、田舎暮らし(住環境)、食べ物、心(悟りの心)等々
Q3.「最後に、今選んだ大切なものの中から、必要なものだけ選んでください。生きていくうえでどうしても必要と言えるものは、皆にとってどれですか?」
みんなが、自分たちが選んだ大切なものリストから、今度は必要なものだけ選んで印をつけていき、講師もホワイトボードのリストに、皆の発言に従って必要なものにマルをつけていきます。
みんなが考えて選んでいる間、講師は静かに話します「自分が大切だと思うものを、捨てろと言われるのは辛いよね。人にとって重要でなくても、自分に重要なものはあるよね。」
金、命、家、仕事、友達、自由、食べ物、等
この段階で、ホワイトボードには、マルのついた、いくつかの項目が残りました。「欲しいもの、大切なもの、必要なものに絞っていくことは、人生には、ありますね、これから社会で生きていくためには必要なことです」と伝えます。
一切皆苦
仏教を独学で勉強しているらしいZさんが音読し、講師が解説します。「人生は苦しいものであると仏教では言いますね。"苦"とは、自分の思い通りにならないということ、それを受け入れること、"苦"を感じないと生きていけないということ」
「じゃあ、"苦"の逆は何ですか?」と聞かれ「喜び、楽」と応えていきます。
ドーパミン
「ギャンブルやスポーツで勝った時、うれしいよね。オリンピックで金メダルとった快感は、一瞬です。永遠には続かない」と講師は言います。
「心に大切だと感じるもの、なくしたくないものを持っていることは、大事です。そういうものを感じながら、社会で生きていってほしい」
先の受講生たちの回答の中にも、ゲームやスウィーツのような、ある人にとってはドーパミンが出そうな物質的なものの他にも、「自由」以外の無形のもの、例えば家族・友達・恋人・異性との人との関係性や、健康・命など、手に触れることのできないものも多く挙がっています。
三人の「卒業」に向けて
米国の一刑務所の卒業式
50代と60代の3人が、来月10月に出所していきます。講師は、「卒業」とよび、彼らに一言ずつ、挨拶をお願いします。
▼▲さんの挨拶
「不安もありますが、一日も早く社会復帰ができるようにがんばります。皆さんも悩みもあると思いますが、がんばってください。赤平先生今までありがとう」
◇◇さんの挨拶
「皆さん、一人ではありません。外に出れば、きっと誰かが手を差し伸べてくれます。ここで学んだことを、社会に出て生かしたいと思います。先生、ありがとうございました」
●○さんの挨拶
「先生ありがとう」
皆さん、とても穏やかで、にこやかで、幸せそうな、本当にいい顔をしています。講師は、ホワイトボードに一度、「将来」と書いて消し、「未来」と書きなおします。「皆さんには、未来があります。これから、皆、まだまだ長く生きます。▽さん、○さん、☆さんも、これから面接に行くからね」
人生を明らめる
法務省「受刑者に対する釈放時アンケート」(平成23年度分)の結果によると、「受刑生活で苦労したと思うこと」の第2位は、「自由がない、好きなことができない」だそうです。赤平先生の生徒たちも、欲しいもの、大切なもの、必要なものが「自由」だと19人中5人が書いています。
同アンケートによると、「釈放後の生活設計で苦労した」が第3位に挙がっていますが、この生徒たちのように、特別調整対象者で、帰る場所がもともとない人たちにとっては、最終的に単身アパートでの生活が出来ないのであれば、ずっと落ち着ける帰住先になるのは、集団生活をしなければならならず、何らかの管理下に置かれる施設になるのでしょうか。
そうなると、獲得できる「自由」の程度は、出所した後にも課題になります。「お金が自由に使えない施設はいやだ」「刑務所より自由が管理されるのはいやだ」「仕事をしてお金を稼ぎたい」「独立して店を持ちたい」「犬を飼いたい」「酒・たばこがほしい」など、彼らの持っている願望のいくつかは、諦めることになるのでしょうか。
あるいは、そうではないと今日の講話は言っているのでしょうか。「一切皆苦」の教えが出ましたが、仏教では「諦める」のではなく、「物事の事情をあきらかにする」つまり、「人生を明らめる」 ことにより、自由になることができると。今日の講話で、みんなは、何を思ったでしょうか。
もうすぐ出所していく三人の、あの幸せそうな顔がずっと続くように、彼らの幸福を祈ります。必要なものだけではなく、彼らにとって本当に大切だと思うものが全て手に入りますように。
次の参観は11月5日(火)または18日(月)の予定です。