府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(6)

隔週の朝10時から1時間、府中刑務所内の知的障がいのある受講生20名を集めて行われる、赤平センター長(以下、講師)の「社会福祉講和」。平成25年8月12日(月)の参観の報告です。今回は2名欠席です。


受講生のプロフィール


受講生は、20代1名、30代4名、40代7名、50代3名、60代3名の男性で、療育手帳を持つ方は18名中6名、また、皆さん、精神障がい、てんかん、高血圧・糖尿病などの何らかの障がいや疾病があります。出所予定は、一番早い方でこの9月、一番遅くて3年後くらいです(満期出所の場合)。


イントロダクション


酷暑が続くなか、お盆でもあり、「お墓参りに行く人は?」という問いかけから入ります。半分くらいの受講生が手を挙げています。続く講師の質問「28年前の今日、何があったか知ってる?」に、「日航機事故」と答えた人が何人かいました。


猛暑


パワーポイントには、この画面が出て、「暑いね、みんな眠れる?」と聞きます。観測史上初めて24時間30度を下回らない日が続いているよ、と話しながら、作業も無理をせず気をつけてくださいと、講師はいつものように伝えます。受講生のチャコールグレーの作業服の背中は、汗ばみ、塩分でしょうか、白く粉を吹いている若い背中も見えます。


勝負:スポーツの世界


スクリーンには、喜び合う甲子園の高校球児の姿が写され、「夏の風物詩になりました、みんなも、出身地の高校を応援するのかな?」と言って、教室を歩きながら一人ひとりの出身地を言って、「○●さんは、どこの高校、応援する?」。首をかしげる人もいるし、有名どころを言う人もいます。


ボルト


次の画面は世界最速の男、ボルトのこのポーズです。「走るの好きな人いる?得意な人は?」と聞かれて、「得意じゃないけど、好きです」と答える人もいます。


戦争


「これ、何の日か知ってる?」という質問に、長崎原爆投下、広島原爆投下、日本が戦争に負けた日と言う人も、うなずく人もいます。「8月15日正午12:00には、甲子園も中断して黙とうをするんですよ」と伝えます。そして「戦争で家族を亡くした人はいますか?」という問いに、誰を亡くしたか、遺影写真に触れる人もいます。


身近な勝負:かけごと


「勝負」という字が大きくスクリーンに出て、講師の「しょうぶ」のほかに何て読む?に「かちまけ」と誰かが答えます。「スポーツも戦争も、かちまけ、なんでこだわるのかな?」と問いかけ、次に「この中で、ギャンブル好きな人いる?」との問いに、半数くらいが挙手します。あのZさんは、右手の手首をひねりながら、パチンコで「かちまけが、とんとんくらいです」と言い、別の人たちは、負けの方が多いと。

「ギャンブルで大儲けして家を建てた人はいないよね、どうしてやるのかな?」と聞かれ、「次に勝つかも知れないから」「熱くなりすぎるんですね」と、続きます。「勝った方がえらくて、負けた方がえらくないのかな?」に、それは違うと思うと何人か応えます。


正しいか


「これはどう思う?」と聞きながら、「戦争もかちまけですが、それがずっと続くわけではない。みんな、ギャンブルで負けてどうですか?」と講師が言うと、「勝っても負けても関係ない」と受ける人もいます。

講師は、「戦争は相手を徹底的にやっつける、怖いね。原爆も落とす。戦争で一般国民が何百万人も死にました。人の命を軽々しく扱うのが戦争です。人一人を殺すと犯罪者、100万人殺すと英雄。戦争で一番大切な理由は、人の命のためではなく、国のため。」


京浜東北線JR南浦和駅での女性救出


この画像がスクリーンに出て、講師は「何しているところかわかりますか?」と聞きますが、誰も新聞報道を見なかったか、色々な答えが出てきます。講師が説明すると、「その人は助かったんですか?」と聞く人もいて、みんな画像に見入っています。

このニュースが世界でも報道され、日本にしかできないことじゃないかと称賛されたとも講師は伝えました。「3.11の時もそうでしたね、他人の命のために力を合わせることができるのが日本人です」あのZさんは、電車が近づいていた踏切内の女性を助けて亡くなった警察官についても発言します。


今日の質問:「あなたに守りたい人はいますか?」


この質問用紙がみんなに配られ、講師に促されてそれぞれが、紙に鉛筆を走らせます。紙を見つめるだけの人もおり、講師が近寄って、何か聞くと首をかしげているのが見えます。18人中12人が、守りたい人は、自分以外の「家族」「友人」「お世話になった人」「辛い思いをしている人」「悪い道に入りそうな人」だと書きました。残りの受講生は、すぐには思いつかなかったようです。


自重自愛

Zさんが音読し、講師が「これは自分を大切にしなさいということですね、みんな自分を大切にしてますか?」講師に見つめられた○○さんは「はい、出所が近いですし」、別の人は「してない」と。Zさんは「戦争のときはやらないとやられる」と話が戻ります。


他尊

Zさんが読んで、講師は空手(心道流)の理念であるというこの言葉の意味を説明します。そして、自分だけが大切なら、32トンもある電車を猛暑の中、押したりしないで、駅員に任せておくでしょう、と。人は、守るものがないとなかなか進んで行けないものです、と。


福祉

「最後に私が言いたいのはこれです。自分を、自分の人生を、自分の家族を大切にするため、人の不幸に目をつぶらないため」


「▽▽さん、福祉と接点を持つことは、恥ずかしいことでも何でもない、自分を信じていい、自分を大切にしていいんだよ。そういう思いを持って、出所してもらいたいんです」


福祉を受けて当然の人たち


府中刑務所が、全定協広報係(筆者)の参観を許可してくださった当初(平成25年2月)は、第2回目からの参観に行くこと自体に躊躇していました。刑務所は若い時から慣れているので全く問題はないが、障がいのある人たちへの講義ということで、その人たちの過去や現在を思うと不条理が付きまとい、しかも未来がバラ色とは言い難いのではないか、気持ちも足取りも重かった。

しかし、回を重ねるにつれ、参加型講義と受講生のリアクションが興味深く、自然の成り行きで、私も彼らの一人になっていきました。今では、「~についてどう思う?」とか、講師がみんなに聞くと、私も思わず手を挙げてしまいそうです。

この日の講義でも、講師の話や受講生の「守りたい人」の話に共感するところが多いばかりか、この報告を書きながらも、それを思い出しては一人で悲しくなったり怒ったりしています。


さらには、ここにも「希望」というものは、あるんだ、希望をもっていいんだと思えるようになりました。そう思えるようになるのは、やはり、彼らの背中を押してくれるこの赤平センター長のような存在、そして、その大前提に、この福祉講話を導入した府中刑務所の判断。刑務所を出た後も、彼らを理解しよう、応援しようとする、例えば更生保護施設 ステップ竜岡など、更生保護や福祉に携わる専門家たち。


「福祉と接点を持つことは恥ずかしいことではない」よくぞ、言ってくれました。福祉を受けて当然の人たちこそ、堂々と胸をはって、福祉を受けてほしいと一市民として思います。そして、そういう人たちこそが、受益者になれる公平な社会がいい。


次の参観は9月24日(火)の予定です。



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