府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(4)

平成25年5月27日(月)講師 赤平センター長(東京都地域生活定着支援センター)の府中刑務所における「福祉講話」の授業を聴講させて頂きました。

前回の授業参観から約2ヶ月半が経ち、受講生の顔ぶれにも変化がありました。昨年度までは、16名だったメンバーが本年度からは20名に増え、そのうち特別調整対象者は7名です(26歳から56歳まで)。出所していった人もおり、新しい受講生は7名で、本日は病欠一名のため19名です。


受講生のプロフィール


知的障がいのある受講生は、20代1名、30代4名、40代9名、50代6名の男性で、療育手帳などを持つ方は6名のみ、残りの方は、精神障がい、てんかん、高血圧・糖尿病、ヘルニア、種々の後遺症などの障がいや疾病があります。

罪名は、8割が、窃盗・常習累犯窃盗で、残りは毒物及び劇薬取締法違反・道路交通法違反・覚せい剤取締法違反・住居侵入です。出所予定は、一番早い方でこの6月、一番遅くて3年後くらいです(満期出所の場合)。


はじめに


「今日が初めての人たちがいますね」30代と50代の二人に、講師が近づき、リラックスして何でも感じたことを素直に言ってくださいと伝えます。


キズナ


パワーポイントには今日の日付です。「昨日、日本ダービーがあったの知ってる?」講師は、キズナという馬が優勝し、その馬の父はディープインパクトという馬で、騎手は武豊という人で、ここ府中の競馬場で開催されたと説明します。誰かが「競馬ですね」と言い、別の人が「(新聞)読んでないからわからない」と言います。次に講師は相撲の話に移り、白鵬が強いね、日本人力士は7年間優勝していないという話をします。受講生の中にスポーツファンはいないのか、だれも目立った反応はしません。


スクリーンには、桜が満開の公園の航空写真が映し出され、「これ、何だかわかる?」と講師に聞かれると、「北海道では今、桜ですね」と、あの精神障害手帳2級をもった生徒がこたえます(彼はよく登場するのでZさんと呼びます)。


ツバメの子どもたち


続く画像は、ツバメの巣で大きな口をあけてエサをねだる子どもたちと親ツバメです。何年も近所の同じスーパーの駐車場の同じ場所で巣作りをしている、店の人も見守ってくれている、と講師が話すと、大きくうなずいている年配の生徒の後ろ姿が見えます。


前回の復習


今日の講話を最後に出所していく人もおり、また近く出所をひかえた人たちも数人いるからか、講師は、出所してからのことを見据えて本題に入って行きます。スクリーンには、


安心


この画像が出て、○の真ん中に何が入ったか憶えているか、みんなに聞きます。これは前回の講話の復習で、真ん中に入る字を「安」と答える生徒がいます。「じゃあ、前回ここからどんな話したか憶えてる?」と講師が聞くと、次々に指された生徒たちは、「忘れた」と答えていきます。

間もなく出所していく◇◇さんは、講師から聞かれると「出てからの事が、やっぱり不安」と言います。出所を間近にした▲▲さんも「どこの施設に入るか不安」と言います。講師は「みんな、安心して安定した暮らしをして来れなかった。これからは、出所したらそういう暮らしをしてほしい、福祉はそういう暮らしを提供する」と。



「恒産なくして恒心なし」 孟子

「衣食足りて礼節を知る」


Zさんが音読し、自分の得意分野だと笑顔です。講師は「今日は学問っぽい話になるけど」と前置きしてから、これらの故事の意味を易しく説明します。「でもこれは、仕事していない人間がダメという意味ではないよ、頑張ろうという気持は安定・安心の状態を保っていないと生まれないということだね」


孟子


続いて、孟子の画像を見せて、いつの時代に生きた人か、その人の教えが日本の教育にどんな影響を与えたか、小学校の道徳の時間に何を学んでいるかなどへも話が広がります。今日は、真剣なまなざしでノートをとっている人が3名。みんな何を思って話を聞いているのでしょう。

講師は「仁・義・礼・智・信」のそれぞれの字の意味するところを分かり易く説明し、生徒たちの名前にもこれらいくつかの文字が使われていることも指摘します。


信じる


「信じるとはどういうこと?」と聞かれ、皆、無言。「自分にも、人にもウソをつかない、誠実でありなさい。そうすれば人を信じられる。そんなきれいごと言われても、おれは刑務所にいるからってみんな思ってる?」と講師が言うと、Zさんが「でも刑務所にいるのは、自分の責任、自業自得です」と。それも一理あるが、例えば経済力のある家族がバックアップして結果的に刑務所へ行かなくてもよくなる人もいると講師が指摘します。


法の下の平等

日本国憲法第14条第1項


「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」のそれぞれの言葉の意味を、講師が易しく説明します。

「たとえ刑務所にいたとしても、出れば本来なら平等、でも◇◇さん、不安だよね、じゃあ、なぜ不安になるのかってこと、法の下の平等はあるのかってこと」と講師が言います。「一人でやらなきゃいけないとなると不安になるが、一人でやらなくていい、関わってくれる人がいる、それが福祉」これから面接に行く人たち(名指しで)は、よろしくね、と講師が微笑みます。


失敗と成功


最前列に座っているZさんは、他の生徒たちが自分たちの失敗・成功について講師に聞かれて答える前に「これは、成功、失敗をどうとらえるかで答えが変わってくる、失敗もあれば、成功もあったで、どちらか片方だけということはない」と言い、講師は「Zさんは、私が話をする前に台本を言っちゃう」と笑っています。


虹の彼方に?


本気の失敗には価値がある(宇宙兄弟)

「本気でやって失敗ってどういうこと?失敗にもいろんな失敗があるよね」という問いに、指された○○さんが、「仕事探して、コツコツ頑張っても失敗する」と言うと、「それは、次につながる失敗だよね、何かが生まれるよね」「いい加減にやった結果の失敗は、ドジったっていう程度かな」と講師が受けます。

するとZさんが「その失敗を生かそうとすれば価値がある、だからその人次第です」と言います。「それはそう、あと、周りの人に理解してもらう事が大事だね。周りから、もうお前はがんばってもダメだよと言われれば、本人の気持ちも腐るよね」


明日があることを幸せと思える生き方:

やり直しができるのが、「福祉」


講師は続けます。「ある人が出所して、福祉にかかわりグループホームに入りました。そこで新しい関係を作っていく中でうまくできず、ストレスを感じ、プイと施設を飛び出した。ところが、所持金がなくて、おなかがすいて万引き。そこにやってきたのが施設の福祉の人で、その人が言うに、▲▲さん、また戻ってやり直そうな。こんなことは、この人にとっては初めてでした。この人の失敗は次につなげる価値ある失敗です。またやり直せる、やり直せばいい、関わってくれる人がいる、理解してくれる人がいる、福祉はこういう考え方です。もうすぐ出所の◇◇さん、土曜日だけど朝早くに迎えに来るからね」


さいごに


今日の授業もあっという間に1時間が過ぎ、講師は皆に感謝の気持ちを伝えます。前回の授業をちゃんと憶えていてくれたこと、考えながら話を聞いてくれること、笑顔を見せてくれること、ただそこにいて聞いてくれること、この時間が一番楽しいと生徒に伝える講師ですが、それは周りにも明白です。


講師と生徒の不思議な時空


授業参観をしていて、いつも思う事は、この赤平センター長という講師と、府中刑務所の知的障がいを持つ受刑中の生徒とが共有する、福祉講話という時間の中での不思議な空間です。講師は生徒を授業の共同構成者として位置づけ、講師はその場面の共有者として、生徒と一緒に意見を言い合う事を楽しんでいるに違いない。一言も発しない生徒たちでさえ、そこにいるだけで、この時間と空間に貢献をしている。なぜそんなことがわかるのかと問われれば、それは、「その場にいないとわからない」としか言いようがない。

講師は生徒を人として尊敬していて、生徒から学ぼうとする対等な関係の存在をそこに感じます。筆者は、人の親なので、自分が子に接する姿勢と照らし合わせて、どうすれば、このように接することができるのか、自己嫌悪を感じつつ、講師の自然体があまりに見事であり、うらやましい。


血となり肉となり


人間が学習した記憶は1週間で大部分消えると聞きます。この講話は2週間に1回なので、2週間後にはほとんど忘れていてもおかしくはないでしょうが、現に「安」という文字が真ん中に入ることを憶えている生徒も何人かいました。福祉が何なのか、福祉が彼らの人生にどう手助けできるのか、この講話で昨年来ずっと行われてきているように、講師が多様な手法で講じてくると、たとえ、2週間に一回の授業でも、消化吸収して自分の一部になっていくような気がするのは自分だけではないと思います。


ある意味、府中刑務所で講話が受けられる彼らは非常にラッキーと言ったら不謹慎でしょか。次の参観は7月8日(月)の予定です。

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