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府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(3)

平成25年3月18日(月)府中刑務所の福祉講話、3回目の参観報告です。今回の受講生のメンバーは、16名中一人が出所し、新来が充当され、病欠一名のため15名です。この中で特別調整対象者は、4名です。


はじめに


「今年度最後の講話になりましたね」パワーポイントには今日の日付です。「○○さんが今朝出て行き、その代わりに◇◇さんが加わりました」と言いながら、◇◇さんにこの講話はどういう時間であるかを説明し、「思ったことを素直に表現してください」と伝えます。

講師は、ホワイトボードに自分のフルネームを書いて、まだ知らない人たちのために自己紹介をします。この講話は約1年前に始まってから回を重ね、20数回になりますが、最初から受けている人、遅れて入ってきた人、出所していく人と動きがあり、赤平センター長の名前を知らない人もいます。

春と言えば桜、スクリーンには福島の千年桜と府中の森公園の桜並木が映し出されます。今年は桜の開花宣言が早いので、入学式には散ってしまうのではないか、新入社員がよく担当するという花見の場所取りに間に合わないのではないかと話します。そして、今日は年度末最後の講話なので、具体的なテーマは設定せず、みんなで語り合いましょうと誘います。


ウオーミングアップ


「久しぶりに間違い探しをやろうか」と、桜を背に記念撮影をする家族のイラストが横並びに2枚スクリーンに映し出されます。どこが違うかポンポンと答えが出ますが、あのするどい○●さんが、「間違いは全部でいくつありますか?」と聞いてきます。わかりにくい場所に隠れている間違えに気付いた人が、皆がわかるまで「言いません」と言う人もいます。最後には、○●さんがみんなにヒントをあげたあと、自主的にスクリーンまで行って、間違え部分を指差します。


春のイメージ


「日本では3月は節目、色々な別れや始まりがありますが、みんなは3月にまつわるどんな思い出がある?」と尋ねられますが、自分から答えようとする人はいないので、講師が一人ずつ指名していきます。

最前列に座っている△△さんは、小学校3年生の時、自転車事故で頭と顔に大けがをしてそれ以来、学校へ行っておらず、3月や桜についての思い出はないようです。その隣の人は、沖縄県出身で釣り三昧だったようで、「釣りが花見だった」と答えます。次の人は、今日入ったばかりの□□さんで、「みんなが笑顔でいい顔をしている」「心が落ち着く」と答えます。

順番に指名され、皆、何かしら言っていきますが、こういう抽象的な話題はあまり受けないのでしょうか、春のイメージを聞かれても「ないですね~」とか「家の前の土手に桜が見えたから、別に・・・」あるいは「いつも刑務所に入っていたから、いい気候になったかな、くらい」。


「誰のものでもないそれぞれの人生を」


講師 「今朝○○さんが出ていき、□◇さんも、もうすぐですね、どうですか?」

□◇さん「二度と刑務所に来ないようにします」

講師 「みんなそう言うね(笑)、じゃあ、そのために何する?」

□◇さん「わかんない・・・」


講師  「○◎さんとはこの間、面接したね。残りの人生をどんなふうに使って生きたい?」

○◎さん「まじめに仕事をやりたい」

△▼さん「やっぱり仕事だね」

□○さん「人間関係に上手く入れなかったので平等にやっていきたい」

講師  「平等、難しいね、誰か、平等って書いてくれる?」


前列の新入生がホワイトボードに「妙道」と書き「これは面白いね、新しい発見だ」と講師が顔をほころばせます。

講師は、1年間福祉の話をしてきたが、生活保護を申請するときに「それぞれの人生」がわかっていないといけない、刑務所に来るような苦しい生活ではなく、人間として当たり前な生活をして、幸せを分かちあることができるように、そのために福祉で最低限必要な文化的生活を、と話します。


新年度に向けて


講師はこの一年の変化を振り返り、受講生一人一人に名前でよびかけて、それぞれの今まで表現されていなかった新たな側面や、講師が感じたことや、これからに向けてのメッセージを送ります。

受講生たちも、出所したら、こんな仕事をしたい、ボランティアをしたい、と自身の思いを話します。また新年度からの講話のテーマや教材についても控えめにリクエストしてきます。

彼らの要望にも応えて講師も、出所した時により役に立つ情報をもっと盛り込み4月からやっていきましょうと締めました。


府中刑務所と赤平センター長の福祉講話は、新年度4月からも続きます。

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