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府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(22)

2016年3月28日府中刑務所 社会福祉講話


今回で最後の講話です。4年もの間、継続してきた最終回ということもあって、特別に聴講させていただきました。そのため今回は、これまでとは違い、講師の語りを中心としたスタイルで皆様にご報告をさせていただくことをご了承ください。


今回は10名の受講生が参加しました。講師はいつものように一人ひとりに声をかけて出席をとります。そして、この日。受講生一人一人に「今考えていること」を無記名で書いてもらいました。用紙を配るなり、すぐさま受講生たちは書くことに集中します。真剣に、自分の思いをしたためている様子です。またその様子を見て講師は少々驚いたようです。一旦手を止めてもらい、講話に入ります。


「丸々4年間やってきましたけどいよいよです。100回やりたかったんですけど、力不足というか・・・世の中上手くいかないこともありますね。この講話は4年前から始まったのですが、4年前って何があったか思い出せる?」


・・・講師は受講生たちに語りかけ、2012年に遡り、2013、2014・・・と一年ずつ、どんな出来事があったか、講話で何を話してきたか、と振り返っていきます。


2012年辰


「あなたの人生でつらかったことは何ですか」

「今まで色んな質問をしてきました。趣味、幸せ、とか。そして、こんなことも聞きました。"あなたの人生でつらかったことは何ですか?"」

・・・受講生たちは想い想いに考えている様子です。

「みんなが過去を振り返りながら話してくれました。私にとっては今日が一番つらい。」


間違い探し

「皆さんの一番好評だったのが"間違い探し"でしたね」

・・・スライドが映し出されると、早速、間違い探しが始まります。「雪ダルマ!」「字が違う!」「ねこ!」と次々に間違いを見つけて盛り上がります。


2013年 孟子

「恒産無くして恒心なし。孟子の言葉。孟子は中国の紀元前の人です。"恒産"っていうのはね、仕事、お金。それらがなければ正しいおこないをすることは難しいですよ、って言っていたんです。生活基盤を持つことの大切さを昔の人がずっと言っていたんです。」


2014年 8%

「この時、消費税が上がりましたね。8%。次は10%の予定。あがるかどうかまだ様子をみてる段階。はっきりわからないようです。ところでこの消費税は何に使うと思う?」

・・・早々に「困ってる人を助ける」と、受講生の中から返答があります。

「そう。福祉目的税と言われていて、困っている人を助けるために使われるんです。」


高倉健&

「この年、大物俳優が亡くなりました。高倉健と・・・」

・・・受講生たちは誰だったかと考え、ようやく思い出して返答が聞こえてきます。「菅原文太!」「トラック野郎でしょ」「仁義なき戦いとかね」


「この年の流行語大賞は何だったか覚えてる?」

・・・受講生の一人が間髪入れずに「倍返しでしょ、おもてなし、じぇじぇ、それと・・・」と答えている途中、「それは一昨年の流行語ですね」と講師が突っ込みを入れると笑いが出ます。「正解はダメよ!ダメダメ!」


2015年 生活困窮者自立支援法

「こういう考え方が出てきました。生活に困ってる人にどんな支援をするか、皆だったらどう助ける?」

・・・受講生たちは自分自身が困ったことについて考え始めます。「生活の仕方」「自分で作って食べること」「体が弱くて仕事できなくて生活に困った」「お金がなくて困って、盗んじゃった」等々の発言が出ます。

「ここにいるみんなが困ってるもんね」

・・・講師は温かい言葉をかけます。


2016年さる

「今年はさる年か・・・、嫌だなあと思っていたら、自分が去る年なのだと思って、何とも皮肉なもんだと思いました。」

「これまでを振り返ってみましたが、あっという間でしたね。」「いろんな事件もありました。その中で一番腹が立った事件がある。中学生が自殺してしまった事件です。2年前に万引きをしたことを先生に言われて誤解が解けないまま自殺することになってしまった。この子は、実際は万引きはしてなかったんだけど、仮にしてしまったとしても、2年前にやったことをずっと言われる教育に腹が立ったんです。」

・・・受講生から意見が出ます。「それは感じますよ」「そう言う人はいますよ」「ほっとけばいいんだよ」「ぎゃふんと言わせればいい!」

「そうですね。社会がそういう考え方を持っているということに腹が立ちます。」


1みさおとねこ 2みさおとねこ 


3みさおとねこ

「私が気に入っている写真なんですよ。みさおおばあちゃん。4匹生まれて、1匹残ったのが福丸。福が来てまるくおさまるようにって。実はこの福丸は耳が聞こえないんです。だけどこうやって仲良くやれている。写真見ると、とっても仲良くやってますね。聞こえない同士寄り添って生きていくって大事なことだなあと思います。」

・・・「いいね~」と受講生たちもスライドに見入っています。

「皆さんも、このおばあちゃんのように寄り添って行ってもらえればなあと思ってます。」


・・・そして、講師は一人一人に近づいて顔をみながら話しかけていきます。


「Aさん。元気で楽しい雰囲気を作ってくれました。何かあると、例えば、"読んで"といえば読んでくれて、話し合いとなると司会をやってくれる。真面目に考えることを続けていってください。」

「Bさん。健康だけは気をつけて。」

「Cさん。心配なんだよね。今度は失敗しないように。人とのつながりを大切に。意地はらないで。」

「Dさん。徐々にあなたの発言が増えていくことが本当にうれしかった。今までありがとうございました。」

「Eさん。一番長い付き合いでしたね。あなたの仕事ぶりを見るのが私は大好きでした。何かの形で力になりたいと思っています」

「Fさん。第1回が最後になってしまってごめんなさいね。」

「Gさん。もう戻らないようにね。何だか目が穏やかになっているのが不思議なんですけどね。」

「Hさん。Hさんも長い付き合いで、最年長のあなたの貴重な経験を語ってくれましたね。運動会も応援頑張ってくれて。困っていることがあれば言ってください。」

「Iさん。真面目だから、違うと思ったら譲らないところがある。長所でもあり、短所でもあるよね。よくわかっているよね」(Iさん頷く)

「Jさん。いつも最前列に座っている、あなたの笑顔に私は何度も救われました。ありがとう。身体に気をつけて。」


「こうして皆さんと一緒にいることは縁です。悪いことをして入ってきたけど、少なくても私の話を聴いてくれて、気持ちを言ってくれて、回を重ねるたびに皆さんのことが大好きで仕方なかったんですけど、残念です。長い間ありがとうございました。」


終わりの時間が近づいてきました・・・その時です。突然Jさんが手を挙げます。そして「先生!言ってもいいですか?」と立ち上がり、一生懸命書いていた「今考えていること」を読み始めます。


―赤平先生と出会ってうれしかったです。いろいろとしつもんしてこたえてくれたどうもありがとうございました。アクロバットのときもうれしかったです。おわかれするのでさみしいです。先生に手紙をかきたいです。先生のことは忘れません。―


<講話を終えて>

「今考えていること」にどんなことが書かれていたのか。受講生一人ひとりが、「赤平先生への手紙」をしたためていて、そこには感謝の言葉が溢れていました。ここですべてをご紹介できないことが残念でなりません。


講師が最後の挨拶をした時にJさんが手を挙げて立ち上がり、自分の書いた手紙を力強い声で読み上げるその姿は見事でした。本当に素晴らしかった。これまで積み重ねて来た講話の重みが、このサプライズの瞬間を生み出しているのだろうと感じます。私もこの瞬間に立ち会うことが出来たことに、とても感謝しています。私は最後部の席で聴講しているため、受講生の顔を正面から見ることが難しい。講話が終わった後で講師に聞くと、目を赤くして、涙目の受講生もいたようです。一番長い付き合いのEさん。Eさんは50回以上この講話を聴いてきました。教室を退場するとき、いつもは物静かなEさんが強く握手をしてくれた、と講師は語っていました。


2012年からこれまでを振り返っていく今回の60分間は、講師と受講生たちにとって、1分1秒の時間の経過を意識させられた60分だったように感じます。講師は、その1分1秒をとても大事にしながら、講師と受講生の関係性と、同時に、同じ人と人との対等な関係性もそこに在るという空間を作り上げます。


私は後ろの席で、涙を堪えながら受講生に語りかけている講師の顔を見ていました。講師の顔を見ながら、以前講師が、日常においていつも講話のことを考えているのだ、と話されていたことを思いだしていました。そして講話の前日に、ほとんど睡眠をとらずに作成していたそうです。受講生ひとりひとりの顔を思い浮かべながら、スライドの構成を組み立てていたのだと。講師は、この社会福祉講話に非常に強い思い入れをお持ちです。講師の世界観、そして講師だからこそ成し得る技なのだと片づけられずにいます。


この講話から、私たち支援者がエッセンスを見出していく作業は重要だと考えています。そこで今回、講師にインタビューをさせていただくことになりました。次回はインタビュー結果を踏まえてファイナルを締めくくりたいと思います。このブログを読んでくださっている皆さんの感想も是非お聞かせいただけると嬉しいです。



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