2016年1月25日府中刑務所 社会福祉講話
今回は新年を迎え、最初の講話です。8名が受講されています。
-今年もよろしくお願いします-
-寒いね、今日は。血圧の高い人は?-
・・・2~3名が手を挙げます。
-血圧は、朝起きる時が一番怖いから、気を付けてください-
Dさん「先生、新しい仕事をしてますよ」
-2016年を迎えるにあたって、新しい仕事はどうですか?-
Dさん「結構大変です」
スライド2
-10年ぶりに日本人力士が優勝しましたね-
-10年だから・・・60場所ぶりです-
Dさん「またやってくれるんじゃないですか、ロボコップ!」
Cさん「そんなに甘くないよ」
-あっという間に次の場所がやってきます-
スライド3
-どこだかわかりますか?-
Dさん「住宅地でしょ?ありえないでしょ」
Fさん「府中じゃないですよね」
Cさん「東京?」
Dさん「北海道!」
-北海道ならば普通ですね・・・-
Dさん「わかんないなあ」
-雪がめったに降らないところ-
・・・
-九州の長崎です。長崎のペンギン水族館。-
Dさん「あ-、長崎」
Fさん「ペンギンが喜んでるね、キンキンって」
Dさん「すごいなあ」
-暖冬って言っていたけど、今日は5~6℃、朝はマイナス4℃-
スライド5
-先週、1月18日は東京に雪が降りましたね。-
-京王線は台風とかでもめったに止まらないのだけど、この日は雪の影響で新宿駅で電車が止まっていて、いつ動くかわからないという状況だったんです。人ばっかり乗ってくるけど電車は動かない。本当は1月18日が今年最初の講話だったのに、結局、ここまで来れませんでした。ごめんなさい。
Dさん「うわあ」
Cさん「そりゃそうでしょ。雪降って立ち往生するもの」
-駅の構内にも入れない。新宿は京王線のほかに小田急線も走っているけど乗り換えるのに30分かかる。人がこれだけたくさんいるから進まないんです。沖縄でも100年ぶりに雪が降ったそうです-
Dさん「軽井沢!スキーツアー!可哀そうに」
-そうですね。15人が亡くなってしまいました。1年に1回はこういったバスの事故があるような気がします。今回の事故の原因はこれから究明していかないといけないけど-
-亡くなった15人は若い人ばかり。損害賠償が大変ですよね。例えば大学生が亡くなった場合、これから社会に出ることを考えて賠償額が決まってくる。小さいバス会社が払えるのか、払えないからそれでいいのか。こういうことが起きるのは悲しいことです-
2016年8月5日
-この日は何でしょうか-
Dさん「オリンピック!」
-どこで開催される?-
Fさん「リオデジャネイロ」
-どこかわかりますか?ブラジルってどこでしょう?-
Dさん「わかった!もうわかったよ」
Fさん「わかんない」
-ではDさん、どこだか教えてください-
・・・Dさんは離席して、スライドの地図へ近寄ります。
Dさん「この地図英語で書いてあるからわかんないよ」
-アメリカの下だからブラジルはここです。日本からすると、真裏にある。だから夏と冬が逆になりますね-
-そのほかに今年予定されていることがあります。
まず、3月 北海道新幹線開通(函館)
九州から北海道まで貫通する予定。
5月 先進国首脳会議(G8) 伊勢 志摩はどこにあるかわかりますか?-
Cさん「わかりません」
三重県ですね。
-先進国って?-
Bさん「わかりませんね」
-ここでいう先進国は8つあります。-
Fさん「日本とアメリカと、えーっとどこだっけ?」
Cさん「中国!」
-中国は入ってません。
・・・受講生から返答がなかなか出ません。
-ロシア、カナダ、ドイツ、イギリス、フランス、イタリア。そう考えるとアジアで先進国に入っているのは日本だけですね。この先進国が毎年集まって会議をするんです。この8カ国が持ち回りで会議を開催する。前に日本のどこで会議が開催されたか覚えてますか?-
・・・受講生は考えています。
-北海道です。洞爺湖サミットが開かれました。そして今年、また日本で開催される。場所は伊勢志摩。何故東京じゃないのでしょうか?
Fさん「なぜ?・・・」
-テロですね-
Cさん「あ-あ-」
-テロはどこでありました?-
Cさん「フランス!」
-先進国の首脳たちが来るための警備をするには、東京だと大変ですからね-
-7月 参議院選挙(予定)。選挙投票したことある?-
・・・受講生の数名が頷きます。
-8月 山の日(8月11日)。休みが1日増える。どうして8月11日になったか?最初は8月12日を予定していたんです。しかし8月12日は、以前、御巣鷹山というところで飛行機が落ちた日なんです。
Fさん「日航機が落ちた事故ですね」
-だから12日を山の日とするのは適切ではないということで一日ずらしたそうです-
-これは?9月 パラリンピック-
Dさん「障害者たちの運動会!」
-運動会ね・・・。オリンピックです-
-11月 アメリカ大統領選挙。候補になっている人知ってる?-
・・・受講生は考えます。
-アメリカには大きな政党がふたつあることは知ってるかな?
Cさん「はい、民主党じゃなくて・・・え-っと・・・」
-民主党と共和党ですね。半分半分くらい。アメリカではどちらかが長年政権を続けることはありませんでした。-
成人
-成人の日はいつ?-
Iさん「1月15日」
-今はハッピーマンデーといって、1月の第2週の月曜日を成人の日にしています-
暴走族
-これは成人式ですよ。毎年、成人式というと暴れてしまう人がいるんです-
Cさん「なつかしいなあ」
Fさん「写ってるんじゃないか?」
・・・受講生たちは笑います。
成人に関する主な法律
Cさん「難しくて読めません。」
-Hさん、読んでみてください。-
・・・Hさんが音読します。
election
-公職選挙法では、今年から18歳で投票権があることになりました。少年法では大人は20歳。18歳か20歳か、で揺れてくる。結婚は何歳でできる?
Fさん「18歳」
-女性は16歳、男性は18歳。でも親の許可が必要になりますね。大人っていうのが曖昧になる。そこで今日は皆さんと一緒に考えてみたいと思います-
大人の条件
・・・受講生から「難しいね」と声があがります。
-どんな人が大人でしょう?皆さんの意見を聴きたいのですけど、一人一人発言してもらいましょうか?それともグループに分けて意見を出し合いますか?-
Cさん「意見出し合う方がいい」
・・・受講生たちは頷きます。
-では2つのグループに分かれて10分くらい話し合ってまとめてください。-
・・・4人ずつ2つのグループに分かれて、記録係を決めてから意見を出し合います。
◆受講生の意見
「国家公務員、国会議員でしょ。」
「簡単じゃん、化粧してきれいになる人は大人に見えるでしょ」
「結婚してる人」
「責任感のある人が大人」
「楽に考えないとダメだって」
「戸籍のある人」
「会社員とかかな」
「酒を飲む人。自分は16歳から飲んでるもん」
「パチンコ出来る人」
「AKBとかは、はっきりいって大人じゃありませんからね」
「カップルとか。カップルだって20歳になれば結婚するし」
「法律を守る」
「法律はどうせ守らんでしょ。ここに居るんだから法律守ってないでしょ」
「親の言うことを聞く」
「成人してる人」
「選挙権のある人」
「刑務所に入るたびに大人じゃなくなるんだ」
「社会人で仕事する人」
「家庭を持って子どもがいて仕事する人」
「仕事が終わって楽しい酒を飲む人」
「社会のルールを守ることが大人の責任」
「社会のルールを守らないと社会で生きていけない」
-刑務所に入っている皆さんは大人とは呼べないということ?-
・・・講師が問いかけます。
Fさん「今は反省してるけど信頼を持つためには真面目に働きます」
-ある調査(内閣府2013年民法の成年年齢に関する世論調査)によると、「大人」になるための条件としてもっとも多くの人が支持をした項目は「自分がしたことについて自分で責任を取れること」、次いで「自分自身で判断する能力を身に付けること」「精神的に成熟をすること」という結果が出ていました。-
・・・受講生たちは想い想いに考えている様子で黙って聞いています。
-どんな人が大人なのでしょう?-
・・・講師は発言が少ないAさんに問いかけます。
Aさん「いいきれない。大人の時もあるし、子どもの時もある」
-確かにそうだと思います。法律を厳しくして子どもたちはどうなるのでしょう?自由にできなくなるのでは?では、自由とは?-
・・・受講生は真剣に聴いています。
-何をしてもいいってこと?ではないですね。何をしてはいけないかを判断するってこと。大人になるってことは法律では20歳とか18歳とか言われていますが、社会の中の一人だという意識がないと大人とは言えない。他の人と接することができるか、自分の意見を押し通すのではなく、相手の意見を聴けること。どうやって相手を認められるか。Aさんが言ってくれた「いいきれない」という意見を認められるかどうか。自分は、よくわかってないのだということを知っていること、そして認めること。大人になることが終わりではなく、社会人として始まるのが大人。未熟で完成してない。生きていく中で、色々なトラブルが起こったりする。皆さんの意見一つひとつは正解、でも足りないということをわかってるということが大事ですね。だから皆さん、立ち止まって考えてください-
<講話を終えて>
このブログを読んでくださった皆さんは、何を感じられたのでしょうか。筆者は、最後部の席で講話をメモをとりながら聴かせていただいています。60分という特別な時間です。受講生の様子、講師の語り方、両者のやりとりの雰囲気、そして時に大きく動く空気感、等々を文章にして皆さんにお伝えできているのか、上手く言語化できない自分に腹立たしさを感じながら、こうして今回も感想を加筆させていただいています。
聴講させていただいてきた中で、いつも思うこと、そのひとつは、受講生たちは"ニュース"として報道される出来事について、とても良く知っている、ということです。そしてそのことを講師も良くわかっていて、受講生一人ひとりの個性を引き出していく時間が前半です。
そして自然な流れのなかで後半へと進みます。今回は"大人の条件"。受講生たちからどんな意見が出るのか予測していたのだろうか、と思うほど、60分がまとまります。講師にたずねると、いわゆる"講話の落としどころ"については事前に考えることはしていないのだと言います。
どんな人が大人なのか「いいきれない」と答えたAさんは、いつも積極的な発言はなく、黙って聞いている方ですが、Aさんなりによく考えていることがわかります。講師は意図的にAさんに問いかけたそうです。講師と受講生のやりとりから、お互いの主体が発揮されている60分なのだと感じます。そして、今日もまた支援者に必要な価値について考えさせられています。