府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(18)

2015年9月28日府中刑務所 社会福祉講話


今回は2015年度第12回目の講話です。11名が受講されています。20代1名、30代2名、40代2名、50代が2名、60代が4名、そのうち、4名の方が療育手帳をお持ちです。


-最近は、どんなことがありましたかね?-

「鶴竜優勝!」

「東京の殺人事件」「○△市で看護師が殺された」

「わからない事件が多いね」

-川島なお美さんがガンで亡くなりましたね-

「あ~」

・・・受講生たちがどよめきます。

-50歳代。私と同年代だから感慨深い-

 「僕は未だ未だだな」

 「僕も」


-ちょうど1年前。何があったか覚えていますか?-

 「1年前か~」

 「ここに居なかった」

 「わかんないな」


御嶽山の噴火

  「あ、桜島!」

 「違うよ」

 「みたけさん?」

 「おんたけさん」

-そう、御嶽山の噴火がありました。あれから1年経ったんですね。57人もの人が亡くなった噴火です。1年はあっという間ですね。-


鶴竜が優勝

-そして、次はこれ。鶴竜が優勝しましたね。-

 「朝青龍」

 「朝青龍はもういないよ。白鵬だよ。」

-相撲は日本の国技だというけれど、横綱は皆モンゴル出身ですよね。-


南アフリカに勝つ

-選手が何故こんなによろこんでいるのか?-

「優勝したから!」

「違うよ」

-そう。優勝ではないんです。今、ワールドカップがイギリスで開催されているでしょう。日本が南アフリカと対戦して初めて勝ったんです-

「へえ~」

-南アフリカに勝つ、ということは奇跡的なことだったんですよ。この後、スコットランドに完敗しちゃったんだよね。-

「なんだ~」

-高校野球のチームがプロ野球のチームと戦って勝つ位の出来事だったともいえるかもしれません。皆が良く知っている"サッカー"って、ボールを蹴るよね。"ラグビー"は横あるいは、後ろにボールをパスするというルールなんです。だから、いっぱいパスをつながないと前に行けない。一つひとつのパスを大切にしていくから、チームワークと体力を兼ね備えてないといけないスポーツなんです。人生に似ていますよね。人生も、なかなか前に進めない。-

「上手い!」

「座布団5枚」

「豚肉3枚!」

・・・受講生たちは大笑いです。


秋といえば

-他に秋といえば?-

「食欲の秋」

「読書」

「スイーツ!」

「そんなの聞いたことないよ」

「勝手につくるなよ~」


曼珠沙華

-この花は知ってる?-

「コスモス」

「彼岸花」

-そう。彼岸花。他に何と言うか知ってる?-

「曼珠沙華」

-そうです。良く知ってるね-

「歌であるから。読め、って言われたら読めない」


田んぼ

-秋は新米が出てくる季節です-

実りの秋

-日本は米を作る国でした。皆さんの中で、農家で育った人は居ますか?-

・・・数名でしたが手を挙げます。


-こういう風景みたことある?Aさんは知ってるかな-

 A「稲を干してる。乾燥して脱穀しないといけないから。」

 B「うち(生まれ故郷)は違うよ。こういう干し方じゃなくて積み重ねていくんですよ。」

-稲刈りするだけではなく、乾燥させないと虫がつく。天空米って知ってますか?-

 「知らないね」

 「聞いたことある!」

-スキー場のリフトに乗せて干しているそうです。そうすると満遍なく空気が入っていい米になる。-

 「へえ~」


-皆は絵を描ますか?-

 「Bさんは上手いよ」

 「そんなことないです」・・・Bさんはすかさず返答します。

-以前、描いてもらったことありましたね。上手に描いてましたね-


ナポレオン

-これは田んぼなんです-

 「田んぼに描いてるの?」

 「描いてるんじゃないよ、貼ってるんじゃない?」

-植えているんですよ-

 「は~」

 「ほ~」

 「初めて見た、すごいね」

・・・うつむき加減だったGさんが身を乗り出して画像をみています。


アート

-色分けして、特徴の違う苗を使って計算して1本1本植えて出来上がる-

 「さすが」

 「すげ~」


アート

-青森の田舎舘村。横から見るとわからないけれど、上から、丁度建物の4階あたりの高さから見ると、こんな風に見えるようになっている-

 「やるね~」


図11図12図13図14

-これは何でしょう?-

 「田んぼの"た"」

-今日は頭の体操をやってもらおうと思います。"水"と書くと、「水田(すいでん)」でも、人の名前だと水田(みずた)さん。"山"を書くと山田さん。そこで、下に田がつく苗字を考えて書いてもらいたいと思います-

 「え~」

 「よしやるぞ!」

・・・配られた用紙に、皆さん思い思いに書いていきます。

 「わかんないな」

 「アウト!」

・・・用紙とにらめっこをしている様子も見られます。

-どんどん思いつくものを描いてみてください。-

・・・"田"の周りに、時間をかけて3~4つ思いついた文字を書くBさん、四方八方に文字の大きさを変えて書くEさん、周りに書いた文字を矢印でつなげるDさん、中央の"田"の字と関係なく、用紙の端から思いついた苗字を書き並べるCさん、11人の個性が用紙に表れます。

-では聞いていきましょう-

 「藤田、神田、生田、岡田」

-1人ひとつずつ言っていこうか-

「森田」

「・・・」

-関連付けて考えてみると、思いつくかもしれません。「森田」、の"森"と関連するものは林、・・・木、「林田」「木田」。

・・・ホワイトボードに文字を書きながら受講生に問いかけていきます。

-"上"ときたら?-

「中田」

「下田」・・・即答です。

-"村"は?-

 「村田」

 「町!」

-松竹梅も"田"をつけると苗字になるね。-

 「松居直美!」

-"杉"もありますね-

 「杉田かおる!」

-方角だったら?-

 「北田」

 「東田」

 「南田」

 「西田」

-"川田"もあるね-

 「池田」

 「海・・・」

 「及川!」

-"田"が付いてないよ。池に似ているものがあるよね?-

 「沼」

-そう、沼田-

 「どうぶつもあるよ」

-そうだね。犬田とか・・・-

 「猿」

 「猫」

-鶴は万年・・・?-

 「亀!」

-色はどうかな?私は赤平だから、赤田

 「黒田」

 「青田」

-何でも苗字なりますね。日本人すべてが苗字を付けるようになって100年ちょっとしか経ってないんですよ。なぜ皆に、こうして考えてもらおうと思ったかというと、頭の体操をしてもらいたかったから。色んなことを関連づけて考えていくという体操。-


自由な発想 発想の転換

-ではCさん、これはどういう意味でしょう?-

 「・・・よくわかんないな~。思いついたときに切り替えるってことですかね」

-見方を変えるってこと。例えば、このペンを横から見るとペンに見えるけど、前後のこの側面からこうして見ると、丸の形に見える」

 「・・・」・・・講師が手に持っているペンを皆、真剣に見ています。

-皆が今持っている鉛筆も見る角度を変えると・・・六角形に見えるよね-


自由 と 責任

-自由って何でしょうか?-

 「プレッシャーがかかるよ」

-そうだね。何をしてもいいってことではない。責任が問われる。-

 「・・・」・・・頷く受講生、黙ってスライドを見ている受講生、講師の顔を見ている受講生、それぞれの思いがある様子です。

-先日、ここを卒業した人に会いました。刑務所を出所して、社会福祉関係の事業所で働きながら、アパ―トで暮らしているMさん。Mさんは50歳代で、刑務所に10回以上、入った経歴がある。そのMさんが、2年半、刑務所に戻らずに生活しているんです。Mさんがね、話してくれました。一人で何でもやってしまおうという気持ちが強かった、って。-

 「頼っていかないとね。一人ではできない、失敗するよ。いいこともあれば悪いこともある。けど乗り越えていかないと駄目。そう思ってますよ」・・・Hさんが語ります。

-そうですね。そしてね、Mさんの暮らしで特徴的なことがあるんです。それはカレンダー。お部屋は散らかっていて、きれいとは言えない状態なのだけど、部屋の壁などに沢山カレンダーが貼ってある。全部で8枚。-


-Mさんは、一日が終わると、終わったという印として、8枚のカレンダー全ての日付を×印で消しているんです。その日が"無事に過ぎた"という思いで2年半続けている。日々、小さな失敗は重ねているのだけれど、幸いにそこを支援してくれる人が居る。ささやかな幸せを手放したくないというMさんの思いが、このカレンダーに表れていると感じたんです。Mさんにとって、1日1日無事に過ごすことは大変なことだったのだと思います。良いことや反省とか、日記書いている人はいますか?-

 「はい!」・・・数人が手を挙げます。


あなたのページ

-これからはね、皆さん一人一人が描いていってください。

 では、そろそろAさんの歌を-

 Aさん「何を歌うか迷ってるんだよな~」・・・Aさんは照れているかのような仕草見せながら颯爽と前に立ちます。

-講話の時間で、いっぱい発言してくれて、元気いっぱいでしたね-

 Aさん「マイク、あー、あー」・・・ホワイトボードのペンをマイクに見立て、マイクのテストをしています。そして皆に向かって話します。

Aさん「皆さん、仲良くしてくれて、話しかけてくれてありがとう。」

Aさん「何を歌おうかな~」

 「AKB?」

Aさん「いや~、どうしようかな~」

 「見上げてごらん夜の星を!」

 Aさん「あ、いいね。それにしよう、"見上げてごらん夜の星を"を歌います」・・・Aさんが歌い始めます。

Aさん「見上げてごらん 夜の星を♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪

      小さな星の 小さな光が

      ささやかな幸せを うたってる

      見上げてごらん 夜の星を ♦♫♦・*:.♦♫♦*゚。♦

      ぼくらのように 名もない星が

      ささやかな幸せを 祈ってる♦♫♦・*:..。♦♫♦*゚¨゚♦」

・・・受講生はAさんを見つめて歌を聴いています。Jさんは最後のフレーズを口ずさみ、Bさんは涙を流しています。

 Aさん「Bさん、どうしたんだよ。何泣いてるんだよ。泣くなよ~。」

・・・Bさんは涙が止まりません。

 Aさん「先生にも挨拶。」

・・・Aさんは講師に感謝の思いを言葉にしています。

-頑張って。よい知らせがくると嬉しいです-


<講話を終えて>

Aさんの歌声は力強いものでした。想いを歌に込めていたのだろうと思います。受講生たちは、心の中でAさんと一緒に歌っていたのかもしれません。"感動"という言葉で表すだけでは物足りないのですが、かといって別の言葉にもできません。Aさんの歌に心が揺さぶられた理由の一つは、講師の話の中で触れられたメッセージとAさんの歌った歌詞のフレーズが重なっていた、ということです。それは、"ささやかな幸せ"という言葉。Aさんは受講生の中でも年齢が若い方です。坂本九さんをリアルタイムで知りません。その若いAさんが、好きな"AKB"ではなく、"見上げてごらん夜の星を"を歌ったこと。当然、台本があったわけではなく、偶発的な出来事でした。講師と受講生とが引き起こした"奇跡"なのでしょうか。日々の生活の中で生まれる小さな奇跡、これが講話の時間の中で積み重ねられていくことが、受講生の心を豊にしているのではないかと思います。受講生一人一人が"ささやかな幸せ"に想いを馳せていたのだろうと思います。気が付くとBさんが泣いていました。最初はこらえていたのですが、自然に湧き起こる涙を抑えることはできなかったようです。そんなBさんに「泣くなよ・・・」と声をかけていたAさんですが、Bさんの涙が嬉しかったのではないかと想像します。そしてまた、その様子を見ていた他の受講生たちもまた同様の気持ちだったかもしれません。


刑務所に入っている受刑者ですが、ひとりの人としてここに居るのだと改めて考えさせられます。一人一人の存在価値を支援者が大切にするだけでなく、受講生自身がその価値をみつけていくこと、講話の時間を通して、その力が引き出されているのではないでしょうか。


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