府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(14)

2015年2月23日府中刑務所 社会福祉講話


11名が受講されています。年齢は30歳代から60歳代まで様々。IQ相当値は70以下、4名が療育手帳をお持ちです。


いつものように講師が11名の入室を迎え、いつものように講師が問いかけて始まります。

メジロ

-この鳥は何?-

「うぐいす」

-うぐいす・・・うぐいすに似ているねー

「メジロ」

-そう、メジロ。目の周りが白いから。梅にメジロ-

・・・似ているけれど、うぐいすではなくメジロだと講師の語りかけで、いつもの雰囲気がつくられていきます。


東京マラソン

-東京マラソンがありました。府中が折り返し地点―

-マラソンって何キロかわかる?-

「42、・・・」

-42.195㎞-

-運動会があったよね。皆、運動会で走った?何キロ走ったの?-

「・・・」


2月22日・2月23日

-2月22日は何の日?-

「夫婦の日」「にゃんこ」「に(2)に(2)に(2)」・・・受講者からの返答が続きます。


竹島 

-これは竹島。2月22日は竹島の日です-

-他には・・・"ニンニンニン"と読めるでしょう-

「ハットリくん」「忍者」


忍者

-そう。それで忍者の日だそうです-

「へえ~」・・・これには感心したのかあちこちから反応があがります。


ねこ 

・・・スライドを見せるや否や反応があがります。

「にゃんこ」「・・・」

・・・受講者は次々と出てくるネコのスライドを見ています。

-Aさんは猫を見ているとき、ほんといい顔するよね-

・・・Aさんは笑みを浮かべて頷きます。


-今日は2月23日。何の日?-

「・・・」・・・皆さん黙って考えています。

-浩宮皇太子殿下の誕生日です-

-それと語呂合わせで"ふ(2)じ(2)さん(3)"の日-


富士山 

-こんな風に、今日は"○○の日"っていうのがある-

-皆にとっての記念日は?-

「誕生日くらいしかないよ」

-他には?-

「満期の日」・・・何人かが頷きます。

-満期の日か・・・毎日考える?-

・・・講師は問いかけたまま次に進みます。


再犯


-今日はまず、再犯ついてお話したいと思います-

-私の知っている方で40回という方がいました-

「40回!すごいベテランだね」

「6回」「8回」「4回」「俺はまだ3回。みんなすごいなあ」「俺、3回目、デビュー遅い、63歳」


-どうして繰り返してしまうんだろう?-

「・・・」・・・受講者一人ひとり、黙って考えて始めます。

-もう(刑務所には)戻って来ないと思っていても、いつの間にか戻ってしまっている現実-

「・・・」


-なぜ?-

・・・講師はゆっくりと問いかけます。

-生きていくためのお金がない、寝る場所もない、どうしようもない、警察に捕まる方が安心だと考える-

-刑務所出る時、作業報奨金(出所後の社会復帰のための資金となる)をもらうよね-

「もらった」「俺、10万あったけど、親が使った」「お菓子食ったりして、お金残らない」

・・・一人ひとりの返答に耳を傾けながら、ここでもまた語りかけて次に進みます。


保護・支援

-次は、『保護・支援』という言葉-

-支援をうけたことはありますか?-

「ないね」・・・多くの参加者が頷きます。

次の瞬間、「はい」と手を挙げる人

-どんな支援を受けたの?-

「保護会で食べるところと寝るところ(を支えてもらった)」

-では皆さんに質問。"支"がつく言葉で他に何がある?-


「枝」「支給」・・・なかなか返答が続きません。

-支店という言葉もあるねー

-こうして見ると、本体があって、そこからそれぞれにつながっているよねー

-同じように、自分がいて、その周りとつながっている-

・・・ホワイトボードを見つめ続ける受講者たちにもう一度問いかけます。


-支えられたことはありますか?-

・・・受講者が思い思いに振り返っているかのように沈黙が続きます。

-自分ひとりでは大変だということ-

-お金がない、どこに相談していいのかわからない-

-住むところ、働くところ。どちらもお金が必要-

-お金をもらって出所するけど、足りない。ここを出るとき、5万円持っている人は少ない。5万で部屋は借りられない。出所日が土日なら、役所はお休み。正月だったらどうする?寒いし、役所は休みだし、冬服もない-


-どうにでもなれって思うことは?-

・・・しばらくして前列の方からの発言があります。

「どうにでもなれって思う。まあ病気みたいなもんだ。今になってわかるんだけどね」

「60(歳)過ぎて捕まった。女房と別れて・・・どうにでもなれって」

「どうにでもなれって言うのは、わかる、あるよね、男は弱いね」

・・・ここで講師は、地域生活定着支援センターが支えてくれることを説明します。

-センターの職員との面接をすることになるかもしれません。その時は、かっこつけず素直に話してください-


ガンジー 

-この人、誰か知ってる?-

「ガンジー」

-何をした人?-

「・・・」・・・受講者から返答はありません。

-何人?-

「インド!」

・・・Bさんが返答します。Bさんから発信したのはこれが初めて。そして講師はガンジーの名言を挙げていきます。


非暴力・非服従 

-非暴力・非服従-

-どういうこと?-

-武器をもたないということ-

-貧しい生活がずっと続くのは嫌だ。でも武器をもって戦いたくない-

-力でねじ伏せないということー

-これは大事なことだよねー

-みんなが力を使いませんということになったら平等になる-


・・・講師はここでもう一度、先ほどと同様の問いかけをします。

-罪を繰り返す中で、何で自分がこんな目に合わなければならないと思ったことはある?-

「自分が弱いから。もっと強く持てば悪いことをしない」

-強く?ひとりでは大変なこと- 

「支える人がいないとだめだね」「仲間がいないと」・・・講師がこれまで語りかけてきたことが生きている返答が出ます。

-ひとりぼっちで強くいるのは難しい。支えてくれる人がいないと難しいよね-


罪を憎みなさい・罪人を愛しなさい


握り拳とは握手はできない

・・・講師は握り拳を受講者の一人の手に近づけます。

-握り拳では握手はできないよね。こうやって手を開いて握手が出来る-

-心を開かないと、信頼していないと、駄目だよね-

-社会の中で生きていくこと。お金がないことよりも大きいことは人間関係を結ぶこと。これが大変。人間関係をつくることが難しい。今後、支援する人が目の前に現れるから、それはチャンスです、自分の気持ちを素直に言って、その人とうまく付き合ってください-


善いことはカタツムリと同じ速度で動く

-諦めて、"もういいや"と言うまでの期間が短いんだよね。

だから1か月、また次の1か月・・・と諦めるまでの期間を長くする。

失敗したときに居てくれる人がいるから・・・。

この講話を聴いた人で、その前に18回入った人がいました。この人は出所してから2年たっている、シャバでの最長記録。彼は、今、グループホームで落ち着いてやってます-



講師の問いかけは、受講者一人ひとりに、これまでの自分を思い出させていたように感じます。「なぜ?」という問いかけに、「なぜだろう?」と振り返る・・・。


受講者Aさんは講話の前半で、講師の問いかけに返答した後、それまで積極的に発言していたのですが、ぱったりと発言はなくなり、最後まで黙っていました。その間、講師の話を聞きながらAさんは何を思い、何を考え、そこに着席していたのでしょうか・・・。そして、終わりに近づいたところで講師はAさんの名前を呼んで問いかけるのです。講師はAさんの様子を観ながら、"今ここで"というタイミングで声をかける。Aさんの懐に入った瞬間をみたような気がします。


講話は月2回のペースで続いています。講師は講話を続けるなかで受講生一人ひとりの変化に敏感に反応し、それを自然体で返します。

講師のメッセージはシンプル。講師の言葉を受講者なりに咀嚼しているのだとはっとさせられます。


諦めてしまってきた人たち・・・実は、ほんの少し傾いているだけで、それをほんの少し支えるだけで暮らしをつくっていくことができるのかもしれません。


次回の講話参観は、4月半ばの予定です。

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