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府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(13)

府中刑務所 福祉講話 26年10月20日(月)


受講生のプロフィール


講話に参加したのは、30代2名、50代6名、60代3名、70代1名の合計12名です。療育手帳を持つ人は5名、疾病のある人は5名で、その他、視力が極度に悪い人が1名新たに加わりました。今回の講義を最後に、出所する人や、最長で平成29年夏に出所する人がいます。


ウォーミングアップ


季節は、スポーツの秋、食欲の秋、読書の秋ということで、色々な季節の画像が、次々とパソコンに映し出され、講師は、それぞれのテーマについて、みんなの意見や想いを聞いていきます。

時事の話題でも、10月20日現在で話題となっていた、阪神の4連勝、ある政治家の政治資金にまつわる事件、ノーベル賞を受賞した三名の日本人の科学者たちのニュース、ノーベル平和賞を受賞したマララさんの話題と、講師は次々に、みんなの意見を聞いていきます。


特にマララさんについては、パソコンに映った彼女の写真を見て、名前をパッと出した受講生がいました。新聞をチェックしていると彼は言います。


「マララさんが、なぜ平和賞をとったか、みんな知ってますか?」と講師は言いながら、人差し指を出している画像と彼女のスピーチを見せます。


''一人の子ども、

一人の教師、

一冊の本、

一本のペン

それで世界は変えられる''


Q:

「これは、どういう意味ですか?」


A:

「おれ、字はだめ、書けない、読めない」

「未熟児で生まれて、3年遅れで小学校に入った。10歳で入学式」

「知恵遅れ」

「勉強しなかった」

「女のケツ、追っかけた」

「義務教育だから、行くことは行ったけど、ただ行っただけ。でもオール1、やや遅れていると言われた」

「学校行かないで、山へ行った」


教育は誰のために?何のために?


Q:

「教育は誰のためにあると思う?何のために勉強しなければならないと思う?」

A:

「自分のため」

「外に出てから役立つため」

「生活のためにあったほうがいいな」


Q「○○さん、生きるために努力はしてきたよね?」

A「してきたよ、だからこんなになっちゃたよ」


「マララさんも言ってます。女性を排除したら、社会は成り立たない。がんばっても出来ない人を排除したら?」


福祉


「この講話は、これ(※福祉)です。」

Q

「じゃあ、福祉は何のためにある?」

A

「生活保護」

「歳とって働けなくなった時にもらうため」

「いじめられたから」

「仕事でモタモタすんなよと言われた。したくてしてるんじゃない、できないんだよ、わかんないし」


Q

「社会の中で、平等に扱われるのが、福祉です。でも福祉は、身近なものではないと感じる。どうして?福祉事務所に相談、行ったことある?」

A

「ない、気軽に行ける所じゃないよ」

「行っても、上手く伝えられない」


「まずは、相談する場所を知っているか?次に、そこで悩みを伝えられるか?そういう事ですね。」


「では、今日はみんなに質問は二つ。

 出所後、したいことは何ですか?

 将来(10年後)、どんな生活をしていたいですか?」


出所後にしたい事:


仕事を探したい・仕事をしたい

たばこと缶コーヒー買って一服したい

スポーツ新聞を見る

酒も飲みたい

いろいろチャレンジしたい

墓場に行きたい(※高齢の方の回答)

家族を幸せにすることを誓う、何って言ったって、もう二度とやくざの世界に足を入れることとなくしていく。

××市に帰って、福祉施設を探してもらい、そこに住んで、そこで働きたい。あとはバイクを買ってまた乗りたい。免許を取りたい。

お母さんと福祉団体の人たちと一緒に、落ち着いて悪い事をしないで、お母さんの言う事を聞いて、警察に捕まることはしない。

親方の所に挨拶に行く


将来していたい生活:

たくさんの友達をつくって、旅行や釣りなどをしていたい

結婚して楽しい生活をしていたい

私はもう80歳になるので、年寄りな所(※老人ホームのことか)におるかな・・・?

わからない

人に役立ちたい

16歳で自立している自分にとっては、家族がいるから、幸せにして、真面目に生きるということです。やくざを辞めるということを前提にして、これからの自分の自覚を持ちつつ、人生を大事にして生活するということであります。

(また来ます)

福祉施設でみんなと仲良くして働いたり、遊んだりする。また、ケアホームがあったら、そこに入りたい。

普通の生活をやっています。

仕事をして映画を見て楽しく暮らしたいと思っています。

鉄骨トビをやっています。

別にありません。

※本人が特定できないように改変してあります。


講話を終えて


ノーベル平和賞をとったマララさんの「一人の子ども、一人の教師、一冊の本、一本のペン それで世界は変えられる」という言葉は、正にこの受講生・受刑者の子ども時代の状況には響くところが大きいのではないでしょうか。


多少の学習障害があっても、刑務所の世話にならなくて済む少年少女や成人の方が多いとしたら、その違いを生むのは何ですか。子ども時代に、誰かが親身になって手を差し伸べていたら、違う人生を歩んできたのではないかと言うのは空虚ですか。


成人して罪を犯し、刑務所に行ったが、出所前から福祉の支援を受けて、もう刑務所に戻らなくてもいい人たちの方が、福祉を受けても刑務所に戻る人たちよりも圧倒的に多いのは事実です。


現在集計中の、平成26年度厚生労働省社会福祉推進事業の一つである、全国地域生活定着支援センター協議会(全定協)の再入所アンケート実態調査では、全国47センター中45センターが回答しており、その結果からもこの事実が裏付けされています。


この調査結果では、全センターが設置された当初(最初の設置は平成21年)から平成25年度末までに、45センターが、矯正施設を退所する前から、あるいは、退所した後などで支援した対象者の数は、4493人います(コーディネート業務と相談支援業務のみ)。


この人たちは、本人が福祉の支援を拒否したり、失踪しない限り、定着支援センターが社会内の資源をつかって福祉につないでいます。


この4493人のうち、再逮捕され、そのうち刑務所に戻ってしまったのは、266名だったので、過去5年間に、合計4227人(94.1%)が福祉で救われていることになります。


この府中刑務所の福祉講話を受けた人たちも、この4227人の中に入っているとしたら、どうですか。日本全国の刑務所でもぜひ取り入れて欲しいです。



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