府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(12)

府中刑務所 福祉講話 26年7月7日(月)


受講生のプロフィール


今日の受講生は合計11名、20代1名、30代1名、40代2名、50代4名、60代3名です。このうち療育手帳保持者は3名、疾病があるものは6名、残りは知的障害など障害の疑いがある人たちです。刑期終了が最短で今年の秋、最長で2年後。


ウォーミングアップ


今日の講話は七夕の思い出から始まりました。「ろうそくをもらった」「平塚の七夕祭り」「金、ないからね」


「大の男に、七夕の思い出、聞いても ― 今の話題と言えば、やっぱり?」

「サッカー!」と最年少の20代の受講生が答えます。


パソコンの画面には、準決勝戦のトーナメント表がでて、みんながそれぞれ、意見を出しています。


「日本は弱すぎた、レベルが違い過ぎです」「ドイツが勝つ」「ブラジルが勝つ」「オランダでしょ」「アルゼンチン、メッシがいるから」


「腰椎骨折をしたらしいです」と講師が言い、生徒は「ドイツが優勝する」と予測しました。結果論になりますが、ドイツが優勝と答えた人が一番多かった。結構鋭い分析をしているのです。


今日のテーマ: 守るべきもの


集団的自衛権に関して

「集団的自衛権が閣議決定で決まった。○○さん、前回の講話、憶えてる?集団的自衛権って何だっけ?」「憶えてません」


2週間前の講話でも集団的自衛権の話題が出て、それぞれ、意見を言ったそうです。別の生徒が「戦争でリーダーシップをとれる」

「単純に言えば、外に行くこともあるということだけど、これ、読んでください」

画面に出た、集団的自衛権の要件を、一人の受講生に音読してもらいます。


「わが国に対する武力攻撃が発生した場合、又はわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」


講師は「密接な関係とは?」という問いに答えがでなかったので、「例えばアメリカはそうだよね、日本に米軍があるよね。では中国は?韓国は?何が密接な関係か、説明が入っていないよね」


「生命、自由が根底から覆されるとは、どういうこと?」との問いに「平和」と言う者がいました。

「前回の講話で、皆に、大切なものは何ですかって聞いたよね。みんなの答え、なんだったっけ?」

「平和」「家族」「自由」「約束を守ること」


憲法9条


「みんなとは今まで、憲法の基本的人権、特に生活保護で、話したよね」

「はい、今度は◇さん、読んでくれる?」と言われ、◇さんは、ほぼ完璧に音読しました。

「みんな、憲法9条、どう思う?」と問われ、生徒は、

「正義って何ですか?」

「日本には武器がないのに、どうやって戦うのか?」


講師は、日本の憲法がつくられるまでのいきさつを、手短に話し、スイスの永世中立国との違いや、従来の日本の戦争放棄への見解、安部総理の憲法解釈の変更、これからの国会での動きなどを簡単に説明します。


ニュースからの話題


野々村兵庫県議号泣都議会議員のセクハラ発言謝罪


「はい、これは皆テレビ見ないから知らないかな」


これらの状況に至るまでのいきさつを話し、手にする報酬に見合わない行いをしている議員がいることなど例を挙げながら説明します。が、反応が少ないので、次の画像へ


差別


「差別」という文字が画面に大きく出ると、自分はいじめられた事があるとはっきり答えた生徒がいました。


講師は、差別には、いろいろなやりかたがあるが、結局、差別とは、「人を傷つける行為であり、弱い者がやられる」ということ、そして、二人、三人、集団と数が増えていく中で、人がいじめに加担していく心理的な状況、最後に行き着く自分のすさんでいく心を語ります。


「このマークは、白い手と黒い手が握手してます。例えばフランスのチームには黒人がいる。移民がいますね」(実際に講師が出した画像はこれではなく、サッカー関連のロゴですが、手に入らなかったので代替物です。)


「日本は、彼ら(移民)にとって難しい。例えば大相撲。モンゴル出身の横綱は3人いるけど、親方になるには日本人にならないといけないとか、ですね」


この画像ですが、こうやって有名な選手たちがバナナを食べて人種差別に反対する運動へのいきさつを講師が話します。熱心に聞く者もいれば、うつむいたままの人もいます。


最後に


最後に「守るべきもの」という大きな文字が画面に出て、講師が「みんなにとってそれは何ですか?」と聞くと、


この問いに、生徒から真っ先に挙がったのは「平和」、そして「約束」「家族」「自分」「自由」。


「では、今日が最後の○○さん、出所の挨拶をお願いします、前に出てきてね」

「社会に出たら、相手の立場になって考え、行動し、弱いものを助け、守るべきものを守り、日本が平和になったらいいです」とにこにこしながら発表しました。

「はい、あっさりまとめてくれました(笑)。


自分一人は弱い、それを知って活動していってください」


講話を終えて


この講話のすばらしい所は、何と言っても、前向きで、建設的で、話題が広がっていくところと、一方通行ではなく、講師と受講生が何かを共に創る時間になっていること、そして話題によって変化する受講生それぞれの反応です。


この講話は福祉の分野をカバーしていますが、単なる情報提供ではありません。社会復帰に向けた準備として、受刑者に考える機会と、自分の意見を自由に表現できる機会が、入所中に提供されています。福祉の情報と共に、このような経験は、出所してから社会で生きていく上できっと役立つのではないか。


さらにプログラムを通じて個々の受刑者の特徴も観察できるので、再犯防止とも関連付けて帰住地調整の上でも参考にもなるのではないか。現に、毎回講話を終えて、限られた時間内ではあるが、講師と教官は、応接室で受刑者一人一人について話し合っています。



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