府中刑務所 福祉講話 26年5月12日(月)
受講生のプロフィール
今日の講話は、受講生12名のうち、1名欠席。年齢は30代から60代、手帳所持者は1名だけです(療育手帳)。残りの人たちは、手帳はないが、知的障害の疑いや、ヘルニア、高血圧、狭心症などの疾病があります。出所時期は、最短の人でこの5月、最長で3年後。
はじめに
府中刑務所での福祉講話は、3年目を迎え、講話第1回目からの受講生は全員、既に出所しました。もともとは、福祉についての話だったが、と笑いながら、受講生の反応を見つつ、バラエティに富んだ話題が盛り込まれていったと、講師が話します。
時事の話題
野球、ツバメ、韓国船沈没事故と、いつものように話題が足早に進みます。
ダルビッシュ
「この選手、知ってますか? 9回ツーアウト、あと一人というところで、だめだった、去年もそうだったね」
広島カープ
「赤いユニフォームの広島カープ、今一番勝っている。カープって何だか知ってる?鯉ですね。広島って聞くと?」
「原爆、落とされた所」
「そうです。広島市民が広島市民球場をつくりました。」
広島東洋カープの本拠地として親しまれ、被爆地復興のシンボルだった旧広島市民球場、赤いユニフォームになってから初優勝をしたこと等の話を聞いたのは、皆、初めてだったにちがいない。
「ヤクルト・スワローズというチームもある。スワローズって、ツバメです。去年の今頃もツバメの巣作りの話をしました。ツバメは毎年5月ごろ同じ場所に巣作りします。」と言いながら、ホワイトボードに絵を描き、
ツバメ
「なぜ、こんなギリギリで狭い所に作るか?」
「蛇に食べられない」
「そう、蛇は上ってこれないし、カラスにも食べられないため。誰にも教えられないのに。」
韓国船沈没事故
「犠牲者は300人にもなりました。人災です、荷物の載せすぎでした。韓国のKBS報道局長が言ったそうです、
―300人、交通事故と比べたら大した数ではない―
家族を亡くし、こんなこと言われたら、みんな、どう思う?」
「怒ります」
今日のテーマ:福祉
「福祉って、みんな、どんなイメージがある?」
「おれは、市役所行った、生活保護もらったけど、トンズラしちゃった」
「おれ、生活保護もらったことある」
「うちに来てくれた、施設を紹介してくれた。2週間働いた。でも、自分のこと、わかってもらえなくて、やめてくれと言われた。」
「(市役所)行ったことないから、わからない」
「おれもない」
「福祉センターに工作を飾られた」
と、いろいろな意見が出ます。
「福祉、わからないよね、普通の人もみんなよくわかっていない」
福祉とは
「人間の幸せという意味だね、だから、トンズラするもんじゃない」
「でもおれは、何回もトンズラしてるから、同じところはだめだね・・」
「いろんな人がいる、同じところに何回も行く人もいる。この中で、生活保護受けたことのある人は?」
と聞かれ、3名が手を挙げています。
「日本に生活保護受けている人、何人くらいいると思う?」
「(日本人の)半分」
「10万人」
「200万人」
「すごいね、○○○さん、その通り、約200万人、どんどん増えてる」
何人?
「では、手帳持ってる人は何人いると思う?」
「100万」
「50万」
「300万」
「500万」
「では、認知症って何?」
「ボケと同じじゃないの」
「刑務所の中にも結構いるでしょ?」
「いるんじゃねーの」
「うつとは違うでしょ?」
「じゃあ、認知症は何人いると思う?」
「1万」
「5万」
「800万人。そのうち、年間1万人が行方不明になっている。自宅から2~3キロでも、わからない、家族がいなければ、だれも気付いてくれない」
社会福祉
「これ、どういうことを思い浮かべる?日常生活が苦しい人のためのものです」
「安倍総理がなんか言ってたけど・・」と誰かが言います。
「どういう意味?」
「むずかしい・・」
「生活保護申請して、もらえた」
「はい、それは、なぜですか?
ないと、生きていけない、行くところがない、
でもトンズラしちゃった、
人間、食って寝るだけじゃなくて、仕事したいよね、
でも飯も食えないで、仕事探せって言われても無理だよね
皆さんには、権利がある、
健康で文化的な最低限度の生活を営む権利がある。」
知好楽
「はい、これ、どっかのラーメン屋じゃないよ」
孔子
「子は、孔子、論語ですね」と言いながら、その意味を野球でたとえて説明します。
「みんなの中にも、今までもあったと思う、
生きる上での張り合いになる何かが。
私は、10年前に刑務所を知りました。そしてみんなを好きになりました。そしてこの時間を楽しんでいます。
みんながこうやって、うなずきながら聞いてくれること、冗談を言ってくれることが、楽しみです。
楽しみだったことが、苦しみになることもある。でも目をそらさずに、突き進む。
さて、今日は、◇さん、最後ですね(出所していくので)。
あいさつ、どう?」
「二度と来ないようにしたいです。地元に戻って、生活を始めます。」小声で、ぼそっと言った◇さんへ、みんなが拍手を送りました。
講話を終えて
赤平講師の福祉講話は、3年目で、そのうちの1年間、2か月に1回程度ですが、参観させていただいています。
講師の、スピード感のある非常に面白い、話の展開の仕方に対して、知的障がいのある受講生が、様々な反応をすること、理解力がすぐれた者たちの間での、互いに駆け引きをするような発言と、それを中和させていく講師、さらに、彼らが一つの狭い空間に集まって、それぞれの、つらかったであろう人生を、そのまま受け入れているかのようなオーラを放ちつつ、でも出所したらこうしたい、ああしたい、と彼らの間で希望が生まれ出ること、それらを自由に語っても、だれにもジャッジされないで済むこと、誰も教えてくれなかった福祉の活用を、目の前で個人的に教えてもらえること等々、その他、その場でアドリブ的に起こるすべてが、この講話の魅力です。
このような社会復帰プログラムが全国に広まるとしても、講師選定に心してあたらないと、彼らにとっては、苦痛の一時間になってしまうでしょう。
「人間、食って寝るだけじゃなくて、仕事したいよね」
「生きる上での張り合いになる、何か」
「楽しみだったことが、苦しみになることもある。それでも・・」
私は、スウェーデン第3の都市、マルメ市内にいくつか点在する、移民集住地区の一つである、ローゼンゴードに、数年前、2年間住んでいたことがあります。マルメ市の人口の半分以上は、移民・難民が占めますが、生粋のスウェーデン人や、経済的自立を果たした移民の住む地区と、生活保護で生きる移民・難民の住む場所は分離されています。
身体や知的、精神の障害があるとか、高齢など、明らかに支援が必要な移民・難民もいますが、心身ともに何の問題もなく、スウェーデン語もある程度習得した人たちが、手厚い福祉で支えられ、起きてから寝るまで、手持無沙汰で毎日を送っているばかりか、鬱憤のたまった若者たちが団地内で暴動を繰り返すのを見てきました。
衣食住に困らないことは最低限ですが、それだけではだめなんです、本当に赤平講師の言われる通り、生きる上での張り合い、大人なら、仕事が必要なのではないでしょうか。福祉講話の受講生たちが、出所したら、仕事をしたいと口々に言っていたのを思い出します。彼らは、出所後、何に、生きる張り合いを見つけるでしょうか。
次回の講話参観は、7月です。