府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(10)

府中刑務所 福祉講話 26年3月3日(月)


受講生のプロフィール


今日の講話は、受講生16名のうち、11名が出席。5名は、懲罰か体調不良のため欠席です。年齢は30代から60代、障害者手帳のある人が2名、ない人は9名。手帳はないが、疾病や後遺症がある人は、4名。出所時期は、今月の人が数名、最長で3年後。


季節の話題


「3月3日は何の日?」と聞かれても、反応は鈍いので、「女の姉妹いる人?ひな人形飾った?おいしい料理、作ってもらった?」。と質問を浴びせますが、それでも、会話が停滞しています。


浅田真央選手


スクリーンには、浅田真央選手がソチオリンピックのフリーで6位になった時のうれし泣きの顔写真。


「日本人は期待かけ過ぎて」

「本人もプレッシャーが」

「日本は他の国と比べて騒ぎ過ぎ」と意見が出ます。


クイズ


「はい、これ、何だと思う?」


犬・・・・・・・3週間

ねこ・・・・・・2週間

馬・・・・・・・30分

人・・・・・・・1年


長い沈黙の後、誰かが、


「歩けるようになるまでの時間」

「その通りです!!」


「じゃあ、これは?」


犬・・・・・・・1年

ねこ・・・・・・1年

馬・・・・・・・1年

人・・・・・・・20年


誰かが、「人は、1年に一つ年をとる」

「そう、大人になれるまでの年月ですね」

「みんな、自分が大人になったと感じたのは、いつくらいかな?」


「20になった時」

「学校卒業して、働き始めた時、15で働き始めた」

「人それぞれ、大人になったと感じる瞬間がありますね。では、どういう人を大人と呼ぶ?」


「年をとれば、大人になる」

「女性の場合は、メンスがあれば」(非常に照れながら、回りを気にして遠慮がちに発言)


「でも男性だって、小学生で夢精する人もいる。でも世の中は、大人と認めないよね。

草食動物は、早く立ち上がらないとライオンとかに食われてしまうから、早く立つ。

犬猫は15年くらい生きると言います。馬は25年、人は80年。

今までの人生、みんな、どうでしたか?長かった?短かった?」


「速かった」

「あっという間にきちゃった」

「・・・犬に生まれてきたら、いい飼い主に拾われたい」

「大人になるまで、1年しか無かったら、好きな事やる」


今日のテーマ:守りたい人


「3月11日は何の日?」


「大地震の日」

「おれは娑婆にいた」

「x刑務所にいた、ひどく揺れたけど、津波は来なかった」


講師は、東日本大震災が起きた後、津波が来る前の約30分間前後、人々がどのような軌跡をたどったか、ホワイトボードに絵を描きながら、科学者たちが衛星画像で解析中だと説明します。


「なぜ、戻ってきたと思う?」誰も口を開かないので、「地震は何時に起きた?」


「2時46分」

「よく憶えてるね」

「その時、Q刑務所のプログラムで、阪神淡路大震災のビデオを見ていて、その時に起きた」


「この時間は、みんなそれぞれ、違う場所にいた。だから・・・」

「助ける為に戻った」

「その通り、家族や、他の人の安否を確かめに、助ける為に戻った。亡くなった3万人のうちの何割かは、この戻った人たちでした。弱者と言われる人たちが、命を落としました。愛する人、助ける人がいる、皆一人で生きていない」


「みんな、(刑務所)出たら、一人でやっていく?」

「誰もいないです」

「一人でやっていくしかない」


「でも、○さん、一人じゃないでしょ?会いに来た人、いるよね?」


「出所したら、誰に会いに行きたい?」

「兄弟です」


「▽さんだったら、助けに戻る?」

「・・・行くと思う」


"卒業"にあたり


「人間は、社会をつくって生きている、寿命も長くなった。

今日の講話が最後になる人たちに、一言ずつ、いいですか?

じゃあ、◇さんから」


「取り調べでも、ケンカにならず、ここまで来れたのも、みんなのお陰、お世話になりました。出たら、自転車を買って・・・東京は9500円、安い所まで歩いて行って、5000円で買う。そして▼▲へ行く。どうもありがとうございました。」


(▽さんの挨拶)「出たら、定着の人が迎えに来てくれるって言ったから、それに乗って○○市の市役所へ行く。その後、仕事する」


「二人ともご苦労様でした。元気でいてください」

二人は、頭を深く下げて「どうもありがとうございました、お世話になりました」


「人生は長い。成熟するのに時間がかかります。もうすぐ春らしくなるし、とにかく健康で、元気でやってください」


講話を終えて


この講話に参加できる人たちは、知的などの障害のある人か、その疑いがある人たちで、自分で参加するかどうか決めるのではなく、出所後の生活を見据えて、福祉が必要だと刑務所が判断した人たちが受けなければなりません。講話に参加する1時間(毎月2回)は、刑務所内作業をしていれば、わずかではあるが得られる工賃を失うことになり、それを望まない人もいるらしい。また、理解する能力が付いて行かない人もいるかもしれない。


それでも、この講話は、この人たちだけに与えられたスペシャルな時間であることに変わりはなく、特権とも言えると思います(授業を受けたほうがいい人すべてが受けられたらいい)。あんなふうに、この講師のような、自分たちよりずっと上の立場にある人が、自分たちと同じ目線で、何かについて、真摯な態度で、コミュニケーションを取ろうとしてくれたことは、私たちが経験しているほど、彼らにはそんなに頻繁にはなかったのではないか。


高校進学率が全国平均98%を超える日本で、小中学校もろくに行かなかったり、義務教育どまりで働き始めた彼ら。おそらく、障害のために、いじめや嫌がらせにもあったことだろう。刑務所に来て初めて、刑務官たちに受刑者として平等に扱われるというのは、皮肉な話です。でも、この講師のような人から、毎回違う色々な話を聞けて、自分の意見も自由に言わせてもらえる。さらに、出所したその日から、定着支援センターに関わってもらえる。例え、もう50、60年生きて来てしまったとしても、まだ、時間がある。これから幸せになってほしいです。

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