府中刑務所における「社会福祉講話」を終えて(3)

福祉講話の講師へのインタビューの最終回です。


インタビュー(3)


◆終わりに

改めて、社会福祉講話を聴講させていただくことができたことに感謝しています。赤平氏の語りのなかによく出てくる"あの雰囲気""あの空気"をこれまで、ここネット上に掲載してきた文章で、どれだけ皆さんに伝えることができたであろうかと省みるとやはり不十分だと言わざるを得ません。


私たちはインタビューをさせていただきながら、講話の時間の赤平氏の顔を思い出していました。講話が始まる挨拶の瞬間、赤平氏がワクワクしている顔に変わっていくのが見て取れる。そして背中越しにしか見えなかったけれども、なぜか受講生も同様の顔を想像できるのが不思議でした。この両者の距離感にも驚きました。なぜこんなに近いのだろうか。勿論、物理的な距離ではありません。赤平氏は受講生一人一人に向き合っているのです。赤平氏は相手の反応に応える自信があるのかもしれない、とも考えていました。聞くと、赤平氏は「自信ではなく実践の積み重ねからできた確信があるのだ」と言いきりました。でもそれは相手があってこそ、失敗があってこそ成り立つものです。相手が私を受け入れてくれている実感を持てなければその確信は持てません。つまり、相互作用から生まれてくる距離感なのです。


"あの雰囲気""あの空気"は、赤平氏だからこそ成し得る"技"なのか?赤平氏の人となりに違和感を持ちつつ、それでも今回の赤平氏の語りには、人を支援するという立場にある者にとって重要なエッセンス、課題を残してくださっていると思います。


受講生の一人であったEさんに出所後、お話を聞かせていただく機会がありました。Eさんは精神に障害のある方です。赤平氏によると、講話の受講生の中でも一番反応が早く、話し出したら止まらない、決して自分の信念を曲げない、そのことから起こる失敗で累犯となった人だそうです。そのEさんは「赤平先生には失礼かもしれませんが、何も講話の内容は覚えていませんよ。少し知識が増えた気がする程度ですね」とのことでした。しかし、ものの一分も経たないうちに「赤平先生がいなければ自分はここにはいなかった、こうして生活できているのは赤平先生のおかげです」という言葉が返ってきたのです。そしてそれは「赤平先生は愛のある方ですから」と。正直、Eさんの言っていることは本当なのだろうか・・・と疑ってしまいます。私たちを、そして赤平氏を喜ばそうと気を使ってくれたのでしょうか。それでも、Eさんの人生のなかで"赤平先生"との出会いは意味があったのだということは感じ取れます。意味のある出会いには、赤平氏が"対等であること"を大事にした関わりがある。この関わりがあってこそ成り立つものではないでしょうか。


とはいえ、赤平氏は大事にしてきたと言いつつも、実はあまりにも自然体で努力しなくても対等な関係性を作りだしているように見えていました。それを指摘すると、赤平氏はこんなことを漏らしていました。


「なんだかんだいっても初めの頃はどうにかしなきゃ、形を残さなきゃと思ってたんですよ。初期の頃は、講師と受講生という形の臨戦態勢だった。それが彼らを知るうちにその鎧を脱ぎ捨てなければならないと考えるようになった。Aさん、Bさん、Cさんのエピソードを思い返してもわかることだけれど、1対多の対峙する関係ではなく、1対個の関係があるということがわかった。だからこそ対等な関係になったのだと思います。彼らを知れば知るほど、彼らが望んでいるものが、大それたものではなくて一人ひとりのささやかな幸せだということに気づかされるわけです。振り返ってみると、気づかぬうちに、彼らが喜ぶことが自分の喜びになっていったんです。」


―気づかぬうちに、彼らが喜ぶことが自分の喜びになっていった― この言葉にハッとさせられます。"あの雰囲気""あの空気"は、赤平氏が時間をかけ、試行錯誤して辿りついた結果なのだと。結果だけではなくプロセスが大事であり、また、決して関係性を軽んじてはいけないということでしょうか。赤平氏がよく口にされている「特別な人のための特別な人による特別な支援ではない」という表現とつながります。


赤平氏や受講した方へのインタビューを通して、「支援」そのものの方向性がどこにむかっているのかということを問われている・・・、と私たちは感じました。


先ほども触れましたが、私たちが聴講させていただいた講話の99%は受講生を背中越しでしか見ることができませんでした。しかし、受講生が教室に入ってくる瞬間は彼らの顔を見ることができます。受講生の一人ひとりが赤平氏の前を通るときに、赤平氏に挨拶や言葉をかけて席に着きます。今日はどんな話になるのだろうという期待と大事な時間であるからこその心地よい緊張・・・。受講生たちの喜びの瞬間が表れていたと振り返ります。そして聴講する私たちもまた同様だったのだと。


講話を通じて出会った皆様に感謝を込めて

2016年8月

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