府中刑務所における「社会福祉講話」を終えて(2)

福祉講話の講師へのインタビューの続きです。


インタビュー(2)


―受講生が出所後に役立ててほしいこと―

ほとんどの人は、出所後、社会で会う機会はない人です。それぞれの生活に追われてこの講話を思い出すことはないかもしれません。それでも良かったって言ってくれる人はいましたよ。出所後頻繁に会う機会があって、会えばかならず言ってくれます。「赤平先生の話を聴いたから今も刑務所に戻らずにいられる」「福祉講話を聞いたから今の自分がいる」とか。セリフを丸覚えにした売れない役者みたいですけど。それでも覚えてくれている、忘れていないっていうのは嬉しいものです。


それとは逆に、特別調整の対象になって出所して福祉につながっても、どういうフォローアップしたかはわかりませんが、早々に再犯してこのクラスに戻って来た人も何人かいます。「また会えてうれしい」なんてことは決していえないわけですから複雑です。その複雑な空気のなか、再受講?となって罰の悪そうな顔をしているその人に「どうしたの?」と声をかけます。返答はそれぞれ異なりますが、共通しているのは、人とのかかわりを上手く作れなかったということです。


講話は万能ではない。まったくそんなことはないです。それでも自分の出所が近づいてくると、自分から「手紙かきます」と言ってくれる人がいる。実際は住所を知らないですから書いてこないけど、そういって刑務所を出て行ってくれる。役に立ってほしいって大雑把な言い方ですけど、受講生の心のどこかに残ってくれればというか、生きてきた中で、刑務所で何度も出入りした中で、ちょっと違う経験したなって印象に残ってくれればいいかな。


―印象に残っている受講生―

 30~40人くらいは思いだしますね。そのなかでも心残りは、途中で投げ出してしまったことになっているAさん。この人は50代、今まで50回以上私の話を聞いたことになる。一度だけ、ちょっとしたことで調査の対象になって講話を休んだことがあるのだけれども、その後無事に戻って来た時「先生、ご心配をおかけしてすみませんでした。」と深々と頭を下げてくれました。いつもは物静かだけれども、本当に真面目に聞いてくれました。今まで福祉のサービスを受けたことはなく、典型的な特別調整の対象者です。あと1年半で出所するから、私自身、何か彼のためにできることはないかとずっと考えていました。しかし、途中で講話をやめざるを得なかった。そんな彼が最終回の1回前に「先生さみしくなるね」って向こうから言ってきたんです。私からは何も言ってないのに講話が終わることを何で知ってるの?って心の中で思いました。


話は初めのころに戻りますけれども、講話の第1回から参加していたBさんも忘れられない一人です。この人は、初めの2~3か月ずっと無視して私の話を聴かなかったんです。講話なんて聞いたってしょうがないって思っていたようで、質問にもろくに答えてくれない。こういう人が出てくると俄然こちらにもやる気がでてきてしまうんです。この人が振り向くような話をすればみんなももっと興味を示してくれる。もしかしたらこのBさんがきっかけで、お堅い講話の形式ではなくて、一人ひとりの対話形式に変わっていったのかもしれません。心がけていたのはどれくらい対等な関係に近づけるかということです。そのためには一人一人の発言を決して否定しないこと、例えば思いがけない発言があったとしたらば、なぜそう思うのかをこちらも素直な気持ちで問いかけることです。その中でBさんは数か月後には自ら手を挙げて発言するまでに変化していきました。出所後も、Bさんとの付き合いはあり、頑なだったころのBさんのことを私が話すと、「先生、勘弁してくださいよ」と照れながら答える。そんなエピソードもあります。


Cさんが歌いだしたことも印象深い。Cさんは20代。私の講話を受講した人たちの中で最も若い人でした。刑期も短かったのですが、とにかく元気で、活発に自分の意見も述べる人でした。彼は発達障害なのですが、一時期、発達障害系の人が4人集まったことがありました。こうなると、ある話題で話が盛り上がると、我も我もと話をし出して、収拾がつかなくなるようなこともありました。これはまずいなと思っていると、次の回の講話が始まる前、Cさんが自ら手を挙げて、「先生、この前はうるさくしてごめんなさい。反省してます。」と言ってきたのです。講話も4年目に入っていた時期ですから、受講生の中に、この講話を共有している意識が生まれてきたような感じがします。そんなCさんが、出所を控えていて講話を聴くのが最後だという日でした。講話の終わりに一言を促すと、Cさんは「じゃあ、僕は歌います」って言いだしたんですよ。周囲は「何歌うの?」「AKB?」等と声をかけて・・・。CさんはAKBが好きでしたからね。でもCさんは「見上げてごらん夜空の星を」を選曲。その歌声は力強かった。受講生は呆気にとられていました。その日に聴講していた職員もなぜこんなことが起こるのかと呆然としていました。一番前に座っていてCさんと中の良かったDさんは、ボロボロ涙を流して泣き出したりして。


あの日、「よし!今日は最後にやるんだよ」って全員で盛り上げて行った雰囲気がありました。こちらはひと言もいわないのに、そこがすごいなって感じます。刑務所生活の中でそういうものを、小さい空間で、みんなで作ってるというものを感じる。一緒になってあの時間をつくるっていう風に変化してきたんです。


他にも印象に残る人は何人もいます。Bさん同様、全く私の話に食いつかずそのまま一言もしゃべらないままに懲罰にかかり他の工場に移されてしてしまった人もいます。刑務所の中で、問題なく一つの工場の刑務作業をやり通すのは結構大変なことなんです。刑務所の生活は単調です。そんな中で刑務所側もマンネリにならないようにいろいろな行事を組み入れています。受刑者たちはその行事などを節目として出所の日を待ちわびています。この講話もその小さな節目の一つになっていたのかな・・・と思います。


ただ、東京近郊で新たな生活を始めた人以外は、出所後、どこでどうしているかわからない。それが悔やまれます。


―そして、今思うこと―

彼らは教えてどうこうではなく、自らが変わっていっている。そういう力がもともとあるんです。お互いあの時間の中で共鳴しあえるという感覚、講師である自分と受講生である彼らとが一緒に同じ空気を吸っている。一人ひとりがあの講話の舞台の登場人物になっていってくれたと思います。本人たちも、今日は何だか、その雰囲気の中で登場人物として何かやろうという気持ちのようなものがすごく出て来た。発言もそうだし、一人ひとり個別ではなく、あのクラスを皆でつくってるという意識が強かった。最終回も、皆がつくってくれた。私が意気込んでやる必要はなくなっていて、「みんな集まったね、さあやりましょう」という感じになった。そういう点では私にとっては幸せな時間でした。幸せな感じは、それなりに94回の中で徐々に徐々に、受講生の入れ替わりはあっても何人かがつないでいってくれていたのは確かです。作業しないでこういう時間があるから楽しい時間にしたいだろうし、楽しみにしてくれてるっていうのは耳にしていたし、実際に皆の顔をみればそれがわかるしね。皆が本音を出してくれるから私も彼らを好きになってしまうんです。


障害者・犯罪者である前に同じ人間であるということを話してもきれいごとでぴんとこない。理屈ではそういうけど。それがあの場の空気をみれば、全く同じ人間同士が同じように楽しいと感じられる。共感するって、いちばん手っ取り早いのは一緒に何かをつくるっていうこと。例えば親子関係のなかで一緒に料理をつくるとか共感できる第一歩。それに近い物があの講話の時間にありました。あの時間をとりあえず一人ひとりが無駄にしなくてよかったという気持ちで十分だけど、それ以上に皆の共通する時間なのだという意識が強かったと感じます。だれかが乱そうとすると見出しちゃだめって言うのですよ、だれかが暴走しようとすると制するのですよ。それは私が教えたわけではなく、自分たちの体験の積み重ねなのです。


―皆さんへのメッセージ―

講話でも引用した一節があります。この一節の意味をこれを読んでくださっている皆さんそれぞれに感じ取ってほしいです。


「眠るなら目をつぶりなさい。考えるなら目を開けなさい。目をつぶって考える中身は大概くだらない。決断に向かって思考するとき、目は必ず見開かれて輝いている」


※むのたけじ(武野 武治、1915年1月2日 - 2016年8月21日享年101歳)は、日本のジャーナリスト



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