府中刑務所での福祉講話を、約1年半前から参観し報告して下さった有志ボランティアは、山梨県地域生活定着支援センター所属の福祉専門職Yさんです(その前は全定協事務局でした)。今回私たちは、講師を務めた赤平氏に最後の締めくくりとしてインタビューをしました。三回に分けてご紹介します。
インタビュー(1)
2012年4月、赤平氏による社会福祉講話が始まりました。当時の府中刑務所から知的障害のある受刑者の支援に力を入れたい、講話の形式で何か始めてみたいという提案があり、赤平氏は「刑務所のこと、障害のことをよく知っている私がやるしかない、今でしょ。」と思ったそうです。それ以降、月2回のペースで継続してきた社会福祉講話ですが、刑務所の都合により、今年2016年3月で終了しました。長く続いてきたものが終わってしまうことは非常に残念です。全94回のうちの22回を聴講し、その内容をお伝えしてきたなかで、講話の意味を改めて問いたいという思いから、赤平氏にこの4年間を振り返って、お話をうかがいました。
―4年間の率直な感想―
私にとっての大切な時間でした。それは、やりがいを感じられるから。あの雰囲気をみればわかるじゃないですか。定着の面接場面では、ああいうことはできないでしょ。やはり特別な世界でしたよね。
―講話で大事にしてきたこと―
できるかぎり対等な関係でいたいってことです。
あとから理屈をつけるとするならば、何かやってくれた時に一人ひとりに「ありがとう」っていうこと、間違ったことを言ったら「ごめんなさい」っていうことです。それって普通の人間ならあたりまえの会話でしょ。
刑務所は受刑する場所だから刑務官が受刑者に頭を下げることはないですし、対等であるわけはない。だから講話の、この空間はそうじゃないよっていうことにしたいと思っていました。刑務所を出たあとに何かの役にたてばいい、自分を振り返るとか、そういうための時間なんだから、そこに一方的な関係は必要ないですから。はじめは白紙の状態だから何もわからなかった、手探り、というのが本音。
―講話のテーマの決め方―
テーマはその日、もしくは前日の夜まで決まりません。なぜなら彼らも皆さんが思っている以上に世の中の動きに関心をもっていることがわかったから。ただ一貫したテーマとしては、人間を大切にしましょうね 関係を大切にしましょうね、ということなんだろうと思います。
だから、その日の受講生の顔色、人数とかによって急に話の内容を変えることもあります。毎回の導入部分は、近々に起きた行事やニュースから入るわけですけど、一人ひとりの調子の善し悪しもあるし、機嫌のいい人、波がある人もいるから、その時の状況で変わるので、かっちりとしたテーマは決めてない。その時の反応によって進め方は変わります。しかし、入所出所の関係で受講生の出入りがあるので、1回1回の話は完結しなければならないということは気を付けていました。
つまり、いい加減と思われるかもしれませんが、はっきりとした目的はなかったということです。彼らをどうこうしたい、評価をもらいたい、といったものではなくて、あくまでも今まで生きてきた人間関係の中で、ちょっとアクセントになるという形になればいい。
「今を生きてる」っていう感覚というか、私にとっても「生きてる」っていう感覚、人間と人間が向き合ってるという瞬間を感じることができるのは、あの時間だったことは確かですよ。
それと、2週間に1回のペースって、またちょっと聞きたくなるなっていう時間だろうし、こっちとしても次のことが頭にあるちょうどいい時間だったと思います。1か月に1回だと内容を忘れてしまうでしょうから。私も1回終わったら、次のことを考えなければならない。毎日のようにずっといろんなことを考えていましたね。一人ひとりのことを思い浮かべながら、周囲で起こってることとか、あれこれとたくさん考えていて、テレビやネットのニュースを以前よりも見るようになりましたね。結果、こうなってるだけのことでしたから、やはり、「思いつき」です。
毎回のスライドも適当といえば適当。前日の日曜の夜中に完成させていました。生の話題をするためには前日でないとね。みんながどんな風に感じるのかなと考えながら、いろんなことを想像しながら、そのなかでこれ(スライド)を持っていきましょうって決めていた。適当というか、気分というか。一つ言えることは、準備を楽しんでいたということ。この準備をすることも講話なんです。
―福祉の題材を使うことが次第に減った理由―
大切なのは、福祉っていう言葉よりも人、信頼出来る人、話しが出来る人と出会ってほしい。そういう人と出会いがなかったら福祉にも結び付いていかないわけですよ。だから地域生活定着支援センターの職員がそういう存在になってくれたら・・・いいなって思ってます。支援者は福祉に結び付けるためを前提で動くけど、それは結果の話しであって、その判断をするのは本人ではなく支援者側の考えなんですよ。本人にとっては、この人なら自分のことを語れるなっていう関係になること。どこかの施設に入る段取り、部屋の使い方とかサービスをどう使うかではなく、だれを信用していいのか、だれに自分の生活を委ねるのか、あくまでも人との関係をどうつくるか、これが一番のテーマになってくる。だから福祉の制度云々かんぬんはあえて後回し。これは君たちが一人で頑張ることではなく、一緒に作っていく。その関係作りなんだということ。一番大切なのはそれです。
インタビュー(2)に続く・・・